それらすべてが愛になる
 ――とうとう、言ってしまった。

 もう後戻りできないという気持ちと、心に込み上げるものを出し切った反動で、清流の頭の中はぼうっとしていた。

 「清流」

 どこかふわふわと現実感のない中で不意に名前を呼ばれて、呼吸ができなくなりそうなほどに部屋の空気が変わるのが分かった。

 それと同時に、つ、と再び清流の頬をなぞる洸の指先と意識せざるを得なくて、顔中に熱が集まってくる。
 ゆっくりと洸の顔が近づくのをまるでコマ送りのように見つめていると、重なる寸前でもう一度清流、と名前を呼ばれた。

 「は…はい?」

 「いい?」

 ぎゅっと目蓋を閉じて小さく頷くと、唇が押し当てられるように触れた。

 直後に何かが弾けるみたいに、甘くしびれるような感覚が走る。

 離れたと思ったら唇の感触を確かめるように何度も食まれて、まるで水底へ溺れていくように呼吸の仕方を忘れてしまった。


 「…息止めすぎ」

 微かに笑う気配がして目蓋を開けると、瞳と目が合った。
 息が止まりそうだと思ったのは、本当に息を止めていたからだったらしい。

 途端に恥ずかしさに襲われて俯きかける顎を、洸は今度こそ捉えて上を向かせる。

 洸のゆるく蕩けた瞳に見惚れているうちにまた気配が濃くなったのが分かって、清流は震えそうになる唇をきゅっと結んだ。


 そうして目をつむる直前――カウンター上のミントの葉が優しく揺れているのが、微かに見えた気がした。


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