優しくしないで、好きって言って

 俺の両親は、俺が幼い頃から共働きをしていた。

 二人揃って医者。

 帰りが遅くなる日や、家に帰れない日は、家にお手伝いさんがやってきて、俺の面倒を見てくれる。

 そんな生活を、当たり前のように過ごしてきた。


 俺ももっと同年代の子どもたちと同じように、親と遊びたかった。

 兄弟がいたらもっとマシだったのかもしれないが、生憎俺は綾城家の一人息子。

 遊び相手もおらず、ただ本と仲良くする日々に、何度も喉から『遊んでよ』と出かかった。

 だけどそれを言わなかったのは、幼心にも両親の仕事を理解していたからだと思う。


 それに、母さんは時間がある時は必ず俺と目一杯話をしてくれたんだ。

 親父がいる時は3人で。

 たまにしか味わえないその時間が、俺は温かくて、大好きだった。


 しかし、俺が幼稚園に通うようになる少し前。もともと忙しかった親父が、前にも増して家を空けるようになった。

< 241 / 272 >

この作品をシェア

pagetop