優しくしないで、好きって言って
その時はよくわからなかったが、親父は当時綾城病院の医院長だった親父の父の跡を継ぐための準備を始めたんだと、あとで知った。
家に帰ってきたとしても深夜で、出ていくのは早朝。顔を合わせることすら滅多にない、すれ違いの日々が続いた。
母さんはそんな親父を献身的にサポートしていた。
当然、俺と過ごす時間は減っていくしかなかった。
やがて俺は、幼稚園に入った。
けれど、入園からしばらく経っても、友達ができることはなく…… 常に一人だった。
いや、そもそも作ろうともしてなかったな。
誰とも交わらず、教室の角が俺の居場所。
でもそれでいいと思ってた。
友達なんかいらない。どうせ家に帰っても一人だ。
俺は一人でも生きていける──。
そうやって過ごしていた俺の心に予告もなしに踏み込んできたのが、あの七瀬だった。