優しくしないで、好きって言って
『ねえ、あなたのパパとママもおしごとなの?』
色素の薄い髪と目をした、髪の長い女の子。
初めて七瀬を見た時、純粋にこんな綺麗な人間がこの世にいるんだと思った。
だけどそんな感想を持ったところで、俺には関わることもない全くの他人。
一生そうだと思っていたものが──この瞬間、変わった。
先生を除いて二人しか残されていない教室で、七瀬は自分のことをなぜかぺらぺらと話し始めた。
父が大企業の社長で、母がデザイナーをやっていて、すごくかっこいいんだと。
そして自分は、とっても優しい二人のことが大好きなんだと。
『でもね、なかなかいっしょにいられないんだぁ』
遠くの方を見つめながら、そう小さく零した一瞬の淋しそうな顔を、俺は今も尚忘れられない。
明るく見える笑顔は、もしかすると弱い自分を隠すためのもので。
──この子は、俺と同じなのかもしれない。
そう思ったら、不思議といつの間にか、俺は俺自身のことを彼女に話していた。