あなたは一体誰?
※※

(自宅から3時間ってとこかしら……)

親友と話した翌日、私は自宅から数百キロ離れたとある街に電車を乗り継ぎやってきた。

親友に電話で事情を話すと、孝明は同じ機種のスマホを2台所有していることがわかった。そこで古い方の電話番号からGPSで位置情報調べてもらったのだ。

(結婚してすぐに互いに何かあったときのためにとGPS機能をつけていたのが、こんなとこで役に立つなんてね……)

私はスマホの地図アプリを見つめる。

(ここになってるけど……)

そして私が電信柱の後ろに身を潜めて目の前のアパートを見つめていれば、2階の一室の扉が開き、聞き慣れた声が聞こえてくる。

(え?!)

アパートから出てきたのは間違いなく孝明だった。

(どういうこと?!)

私は今朝、ここにくる前に一緒に住んでいる孝明を尾行して、孝明が出社したのを確認している。

「孝明〜、リコ、さむーい」

そう言って孝明の腕に自分の腕を絡ませたのは、まだ若い女性だった。

(リコって……前に孝明さんのスマホのLINE……)

「ねー、孝明さん、本当にもう家帰らなくていいの?」

「ああ。話しただろ? 研究の報奨金が山ほど出たし、家にはアイツがいるからね」

「奥さんにバレないかな〜?」

「ないない、美里はそんな頭の回る女じゃない。今頃、アイツを改心した俺だと思って浮かれて暮らしてるさ」

「きゃはは、かわいそ〜」

「それよりもその赤いバッグよく似合ってる。リコは赤が一番似合うね」

「ありがと、大事にするね」

リコは上目遣いで孝明を見つめた。

「ねぇ、孝明は誰を愛してるの?」

「どうした? リコ、お前だけに決まってる」

「奥さんは〜?」

「奥さん? はっ、今の俺には奥さんなんていないね。これからもアイツに任せて俺たちはこうやってずっと2人で遊んで暮らせばいいんだ」

「だね! じゃあ今日は予定通りリコの運転でセリールのワンピ買いに行こ〜」

「この間、この車も買ってやったばかりなのに悪い子だな」

「あははっ」

私は全てを悟ると、孝明とリコが乗った趣味の悪い赤のセダンが走り去るのを見ながら奥歯を噛み締めた。


(そう……そうだったのね……)

(優秀で頭がキレる貴方らしいわね……)

(信じた私がバカだった)

私は心の真ん中から体の隅々までが黒いモノに覆われて行くのを感じながら、もう1人の孝明が帰ってくる自宅へと戻った。
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