あなたは一体誰?
それから数ヶ月が過ぎた。私は孝明が仕事に出かけてから、できる限り孝明について調べるようになった。

尾行するのは気が引けたが、孝明は仕事を欠勤することなく毎日出社していたし、研究室に泊まることもなく定時で帰宅している。

孝明には双子の兄か弟でもいるのかと思い、市役所で戸籍を調べたが孝明は一人っ子で間違いなく他に兄弟もいなかった。

「でも……違う……」

別人のようになった孝明と暮らし始めて気づいたことがいくつかある。

それは孝明が使っていたスマホは機種が古かったのだが、先日よくみたら同じ古い機種だが新品になっていたのだ。

孝明に聞くと『これが使いやすいから』と話していたが、以前、孝明はもうすぐ最新の機種が出るからこれに変えるとテレビを見ながら、独り言を言っていたのを私は覚えている。

またもうひとつ気になるのは何故だか孝明は過去の記憶は鮮明に覚えているのに、今現在についての会話が微妙に噛み合わないことがあるのだ。

どう表現したらいいかわからないレベルなのだが──でも違う。

そして先週、私は《《ある決定的なこと》》に気づいてからは、孝明が誰なのか知りたい気持ちがどんどん強くなっていた。

「あなたは一体誰なの……?」

(……そうだわ!)

私は勢いよく椅子から立ち上がると携帯会社に勤めている高校時代の親友に電話をかけた。
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