あなたは一体誰?
面倒くさがりの孝明は美容師だった私に自分の髪を切らせていたのだが、別人のように優しくなってからの孝明の髪は、数ヶ月経つのに今だに切っていない。
伸びてこないのだ。
さらにそのことを孝明に聞くと、『伸びてきたからそろそろ切ってよ』とズレた返事が返ってくる。
《《以前の夫である》》孝明は、国家機密である、とある大きな研究所で、人間とほぼ同等のAI人間の開発に取り組み、日々研究を重ねていた。
そして人間の微細胞を増殖させる特殊な薬で臓器や皮膚、髪の毛までも再現することに成功したのだ。このAI人間ならば、怪我をすれば血もでるし、人間の細胞が元になっているため、見た目も中身も完璧な人間でAIだと認識することは常人にはまず不可能だ。
さらにAI人間の脳内は極小のチップが埋め込まれており、常にAI学習アプリを会社のシステムと連動させているため、定期的に情報がアップデートされる。そのため、孝明のハチミツアレルギーが治ったのではないかと私は推測している。
(髪の毛は伸びる前にいつも私が切ってたから、そこだけAIに学習させるのを忘れたのね)
(孝明さんらしい……というか人間らしいわね。どんなに完璧に見えても人間ならミスをする)
まだ私たち夫婦に会話があったころ、よく孝明が言っていた。
『……政府は臓器移植の適合率100%を目的としてこの研究に取り組んでいるが、俺がもし自分のニセモノを作り出すことができれば、俺は一生遊んで暮らしたいね。それが俺の幸せだ──』
(何が幸せなのかは……その人次第)
「美里、ご馳走様。俺、コーヒー淹れるね! 昨日買ってきたこのコーヒー美味いんだよ。美里にも飲んでみて欲しい」
「孝明さん、いつもありがとう」
「俺こそいつもありがとう」
私はその言葉に心からの笑顔を孝明に向ける。
「孝明さん、私とっても幸せよ」
「美里、俺も幸せ……ってなんか恥ずかしいな、朝から」
「ふふ、ほんとね」
──あなたは一体誰?
そんなこともう聞かない。
聞く必要もない。
知る必要もない。
ただ私の好きだった貴方を愛していくだけ。
2024.12.15 遊野煌
伸びてこないのだ。
さらにそのことを孝明に聞くと、『伸びてきたからそろそろ切ってよ』とズレた返事が返ってくる。
《《以前の夫である》》孝明は、国家機密である、とある大きな研究所で、人間とほぼ同等のAI人間の開発に取り組み、日々研究を重ねていた。
そして人間の微細胞を増殖させる特殊な薬で臓器や皮膚、髪の毛までも再現することに成功したのだ。このAI人間ならば、怪我をすれば血もでるし、人間の細胞が元になっているため、見た目も中身も完璧な人間でAIだと認識することは常人にはまず不可能だ。
さらにAI人間の脳内は極小のチップが埋め込まれており、常にAI学習アプリを会社のシステムと連動させているため、定期的に情報がアップデートされる。そのため、孝明のハチミツアレルギーが治ったのではないかと私は推測している。
(髪の毛は伸びる前にいつも私が切ってたから、そこだけAIに学習させるのを忘れたのね)
(孝明さんらしい……というか人間らしいわね。どんなに完璧に見えても人間ならミスをする)
まだ私たち夫婦に会話があったころ、よく孝明が言っていた。
『……政府は臓器移植の適合率100%を目的としてこの研究に取り組んでいるが、俺がもし自分のニセモノを作り出すことができれば、俺は一生遊んで暮らしたいね。それが俺の幸せだ──』
(何が幸せなのかは……その人次第)
「美里、ご馳走様。俺、コーヒー淹れるね! 昨日買ってきたこのコーヒー美味いんだよ。美里にも飲んでみて欲しい」
「孝明さん、いつもありがとう」
「俺こそいつもありがとう」
私はその言葉に心からの笑顔を孝明に向ける。
「孝明さん、私とっても幸せよ」
「美里、俺も幸せ……ってなんか恥ずかしいな、朝から」
「ふふ、ほんとね」
──あなたは一体誰?
そんなこともう聞かない。
聞く必要もない。
知る必要もない。
ただ私の好きだった貴方を愛していくだけ。
2024.12.15 遊野煌


