本日、私の大好きな幼馴染が大切な姉と結婚式を挙げます ~side story ~
川口直人 62
――19時
俺は最悪な気分で常盤恵利との待ち合わせ場所であるショットバー『プルミエール』にやってきた。
「……帰りたい……」
何故、不愉快極まりない女とショットバーへ行かなくてはならないのだろう? これが相手が鈴音なら喜んで来るのに……。
ため息をつきながら店内へと入っていった。
店の中は間接照明でオレンジ色に照らされ、ムードが漂う雰囲気の店だった。こんな店……鈴音とだって来た事が無かった。2人で飲みに行くときは大抵居酒屋と決まっていたからだ。
「あの女……もう来ているのだろうか?」
キョロキョロと周囲を見渡していると、カウンター席から声が聞こえてきた。
「直人、こっちよ」
声の方向を見ると、そこには3人のスーツ姿の男性に取り囲まれた濃紺のワンピース姿の常盤恵利がいた。彼女は真っ赤なルージュを引き、大きなイヤリングをつけていた。
「何だ……本当に男を待っていたのか」
グレーのスーツ姿の男が俺をつまらなそうに俺を見ながら言う。
「ね? 言った通りでしょう? 分かったらあっちへ行ってくれる?」
他の2人の男達にも視線を送る。
「分かったよ」
「邪魔したね」
そして3人の男達は俺に視線を送ると、テーブル席へと移動して行った。
俺は無言で常盤恵利の座るカウンター席に座った。
「遅れてすまない」
「あら? 別に謝らなくてもいいわよ? 私の方が早く来たのだから」
よく見るとテーブルの上には空になったグラスが置かれている。
「……そうか」
それだけ言うと、テーブルに立てかけてあるメニュー表に手を伸ばした。
すると……。
「ちょっと……そうかって、それだけなの?」
俺の態度が気に食わなかったのか、文句を言ってきた。
「それだけって……他に何を言うんだ?」
メニューを広げると、脇から取り上げられた。
文句を言うのも馬鹿らしく、ため息をつくと突然常盤恵利がヒステリックに喚いた。
「ちょっと! 私が男達に声をかけられる姿を見てどう思ったの?」
「……別に困っているようには見えなかったな。むしろ俺には声をかけられて喜んでいるようにも見えた」
「……なっ!」
「何だ? 違うのか?」
「そ、それは……」
常盤恵利は口ごもる。客観的に見ても、先程の彼女は困っている様子には全く見えなかった。むしろ俺には男に声をかけられて優越感に浸っているようにも感じられた。
「分かったら返してくれ」
手を差し出すと、常盤恵利は無言でメニュー表を返してきた。少しの間、メニュー表に目を落とし……。
「すみません」
カウンターに断つバーテンに声をかけた。
「はい。ご注文はお決まりですか?」
「ジン・リッキーをお願いします」
「かしこまりました」
無言でバーテンがカクテルを作っている様子を眺めている。鮮やかな手付きでカクテルを作っている姿を見るのは気分が良かった。
そして思った。
一度くらい、鈴音とショットバーへ行ってみたかった……。
こんな風に突然鈴音と別れなければならなくなるとは思ってもいなかった。俺は本気で鈴音を愛していたし、来月思い出のホテルでプロポーズしようと考えていたからだ。
「お待たせいたしました」
不意に目の前にグラスが置かれた。
「ありがとう」
受け取ると笑みを浮かべてバーテンは去っていく。
「それじゃ、乾杯しましょ」
不意に声を掛けられ、思い出した。そうだ……俺は常盤恵利に呼び出されて、ここに来ていたんだっけ……。
「乾杯」
「……乾杯」
うんざりした気持ちで常盤恵利と乾杯した――
俺は最悪な気分で常盤恵利との待ち合わせ場所であるショットバー『プルミエール』にやってきた。
「……帰りたい……」
何故、不愉快極まりない女とショットバーへ行かなくてはならないのだろう? これが相手が鈴音なら喜んで来るのに……。
ため息をつきながら店内へと入っていった。
店の中は間接照明でオレンジ色に照らされ、ムードが漂う雰囲気の店だった。こんな店……鈴音とだって来た事が無かった。2人で飲みに行くときは大抵居酒屋と決まっていたからだ。
「あの女……もう来ているのだろうか?」
キョロキョロと周囲を見渡していると、カウンター席から声が聞こえてきた。
「直人、こっちよ」
声の方向を見ると、そこには3人のスーツ姿の男性に取り囲まれた濃紺のワンピース姿の常盤恵利がいた。彼女は真っ赤なルージュを引き、大きなイヤリングをつけていた。
「何だ……本当に男を待っていたのか」
グレーのスーツ姿の男が俺をつまらなそうに俺を見ながら言う。
「ね? 言った通りでしょう? 分かったらあっちへ行ってくれる?」
他の2人の男達にも視線を送る。
「分かったよ」
「邪魔したね」
そして3人の男達は俺に視線を送ると、テーブル席へと移動して行った。
俺は無言で常盤恵利の座るカウンター席に座った。
「遅れてすまない」
「あら? 別に謝らなくてもいいわよ? 私の方が早く来たのだから」
よく見るとテーブルの上には空になったグラスが置かれている。
「……そうか」
それだけ言うと、テーブルに立てかけてあるメニュー表に手を伸ばした。
すると……。
「ちょっと……そうかって、それだけなの?」
俺の態度が気に食わなかったのか、文句を言ってきた。
「それだけって……他に何を言うんだ?」
メニューを広げると、脇から取り上げられた。
文句を言うのも馬鹿らしく、ため息をつくと突然常盤恵利がヒステリックに喚いた。
「ちょっと! 私が男達に声をかけられる姿を見てどう思ったの?」
「……別に困っているようには見えなかったな。むしろ俺には声をかけられて喜んでいるようにも見えた」
「……なっ!」
「何だ? 違うのか?」
「そ、それは……」
常盤恵利は口ごもる。客観的に見ても、先程の彼女は困っている様子には全く見えなかった。むしろ俺には男に声をかけられて優越感に浸っているようにも感じられた。
「分かったら返してくれ」
手を差し出すと、常盤恵利は無言でメニュー表を返してきた。少しの間、メニュー表に目を落とし……。
「すみません」
カウンターに断つバーテンに声をかけた。
「はい。ご注文はお決まりですか?」
「ジン・リッキーをお願いします」
「かしこまりました」
無言でバーテンがカクテルを作っている様子を眺めている。鮮やかな手付きでカクテルを作っている姿を見るのは気分が良かった。
そして思った。
一度くらい、鈴音とショットバーへ行ってみたかった……。
こんな風に突然鈴音と別れなければならなくなるとは思ってもいなかった。俺は本気で鈴音を愛していたし、来月思い出のホテルでプロポーズしようと考えていたからだ。
「お待たせいたしました」
不意に目の前にグラスが置かれた。
「ありがとう」
受け取ると笑みを浮かべてバーテンは去っていく。
「それじゃ、乾杯しましょ」
不意に声を掛けられ、思い出した。そうだ……俺は常盤恵利に呼び出されて、ここに来ていたんだっけ……。
「乾杯」
「……乾杯」
うんざりした気持ちで常盤恵利と乾杯した――