本日、私の大好きな幼馴染が大切な姉と結婚式を挙げます ~side story ~
川口直人 87
「……直人、大丈夫か?」
常盤商事を出たところで父が話しかけてきた。
「あ、ああ……大丈夫だよ。どうって事は無い」
「だけど、まだ婚約者の件が……」
「大丈夫だって。常盤社長はもう川口家電からは手を引くって約束してくれたんだ。そうすれば彼女だって俺との結婚を諦めてくれるだろう? 何しろ俺に対して今まで高圧的な態度に出ていたのだって、父親の後ろ盾があったからなんだ。それがもう無くなるんだから」
「直人……」
父は深刻そうな顔で俺を見ると足を止めた。
「実は……お前に大事な話があるんだ……」
「え……?」
次に父の口から出た言葉に衝撃を受けた――
****
川口家電の買収を食い止める事が出来たこの日、社長に任命された。あまりにも突然の話に驚いてしまったが、父は以前から俺を社長にする事を考えていたそうだ。
会社に戻った後はあわただしくなった。幹部社員達を会議室に集め、父は社長の座を俺に渡す事を発表し、全国にある支社や支店への報告と取引先への挨拶。引継ぎの話……等々、目も回るような忙しさだった。当然常盤恵理と話が出来るような余裕は無かった。ただ岡本にだけは自分が川口家電の社長に任命されたことだけをメールで伝えた。勿論、これ以上常盤商事の好きにはさせないという事も。
今は大人しく手を引いてくれたが、あの社長の事だ。またいつどこで川口家電に手を伸ばしてくるか分らない。常に警戒しておかなければ――
19時半――
「ふぅ……やっと一段落ついたな」
社長室でネクタイを緩め、ため息をつく
ようやく常盤恵理に連絡を入れる余裕が出来た。そこで早速電話を掛けることにした。
『……もしもし』
4コール目で常盤恵理が電話に出た。そこですかさず告げた。
「常盤商事と川口家電の買収話は無くなり、完全に常盤商事との縁が切れた。だから俺達の婚約話も無かった事にさせて貰う」
『……は? 何よその話……』
電話越しから、何処か間延びしたような常盤恵理の声が聞こえてくる。
「聞いての通りだ。買収の話は立ち消えになったんだ。だから当然俺達の結婚の話もおしまいだ」
『ふ、ふざけないでよ! ずーっと連絡1つ入れてこないで、ようやく電話がかかって来たと思えば別れ話!? 私達来月結婚する事になっていたでしょう!! 式場だって手配していたのに……招待状だって出していたのよ!? どうしてくれるのよ!!』
電話越しからヒステリックな声が聞こえてきた。……何だって? 結婚式? 招待状だって? そんな話は初耳だ。
「ちょっと待ってくれ! 俺はそもそも結婚式の話しなんか聞いていないぞ!? 入籍だけさせられるかと思っていたのに……おまけに結婚式の招待状だって!? そんなもの知らないぞ!」
『直人を逃がさない為に私が1人でやったのよ! どう? この話を聞けば流石の直人でも責任取って結婚する気になったでしょう?!』
何て恐ろしい女なんだ……。だが、それでも俺の答えは決まっていた。
「何と言われようと俺は君の事を好きにはなれない。始めから結婚なんて考えた事もないんだ」
『そ、そん……な……酷いじゃない……あんまりよ……』
ついに、あの気丈な常盤恵理が泣きだした――
常盤商事を出たところで父が話しかけてきた。
「あ、ああ……大丈夫だよ。どうって事は無い」
「だけど、まだ婚約者の件が……」
「大丈夫だって。常盤社長はもう川口家電からは手を引くって約束してくれたんだ。そうすれば彼女だって俺との結婚を諦めてくれるだろう? 何しろ俺に対して今まで高圧的な態度に出ていたのだって、父親の後ろ盾があったからなんだ。それがもう無くなるんだから」
「直人……」
父は深刻そうな顔で俺を見ると足を止めた。
「実は……お前に大事な話があるんだ……」
「え……?」
次に父の口から出た言葉に衝撃を受けた――
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川口家電の買収を食い止める事が出来たこの日、社長に任命された。あまりにも突然の話に驚いてしまったが、父は以前から俺を社長にする事を考えていたそうだ。
会社に戻った後はあわただしくなった。幹部社員達を会議室に集め、父は社長の座を俺に渡す事を発表し、全国にある支社や支店への報告と取引先への挨拶。引継ぎの話……等々、目も回るような忙しさだった。当然常盤恵理と話が出来るような余裕は無かった。ただ岡本にだけは自分が川口家電の社長に任命されたことだけをメールで伝えた。勿論、これ以上常盤商事の好きにはさせないという事も。
今は大人しく手を引いてくれたが、あの社長の事だ。またいつどこで川口家電に手を伸ばしてくるか分らない。常に警戒しておかなければ――
19時半――
「ふぅ……やっと一段落ついたな」
社長室でネクタイを緩め、ため息をつく
ようやく常盤恵理に連絡を入れる余裕が出来た。そこで早速電話を掛けることにした。
『……もしもし』
4コール目で常盤恵理が電話に出た。そこですかさず告げた。
「常盤商事と川口家電の買収話は無くなり、完全に常盤商事との縁が切れた。だから俺達の婚約話も無かった事にさせて貰う」
『……は? 何よその話……』
電話越しから、何処か間延びしたような常盤恵理の声が聞こえてくる。
「聞いての通りだ。買収の話は立ち消えになったんだ。だから当然俺達の結婚の話もおしまいだ」
『ふ、ふざけないでよ! ずーっと連絡1つ入れてこないで、ようやく電話がかかって来たと思えば別れ話!? 私達来月結婚する事になっていたでしょう!! 式場だって手配していたのに……招待状だって出していたのよ!? どうしてくれるのよ!!』
電話越しからヒステリックな声が聞こえてきた。……何だって? 結婚式? 招待状だって? そんな話は初耳だ。
「ちょっと待ってくれ! 俺はそもそも結婚式の話しなんか聞いていないぞ!? 入籍だけさせられるかと思っていたのに……おまけに結婚式の招待状だって!? そんなもの知らないぞ!」
『直人を逃がさない為に私が1人でやったのよ! どう? この話を聞けば流石の直人でも責任取って結婚する気になったでしょう?!』
何て恐ろしい女なんだ……。だが、それでも俺の答えは決まっていた。
「何と言われようと俺は君の事を好きにはなれない。始めから結婚なんて考えた事もないんだ」
『そ、そん……な……酷いじゃない……あんまりよ……』
ついに、あの気丈な常盤恵理が泣きだした――