大人になりたて男子は夢をみないはずだった
機上から見る初めての街は海と山に囲まれていた。
狭い街だと思った。
東京の景色とは比べ物にならない。
早く戻りたい。
まだ飛行機から降りてもいないのに、オレは憂鬱な気分になった。
空港に迎えの車が来てくれていて、それに乗った。
都市高速という道路をしばらく走ると海がすぐ近くで、それは気に入った。
山しかない所で育ったから、海が見えるだけでアガる。
スクールに着くと事務所で三神さんと世良さんが迎えてくれた。
「お、来たか」
「お疲れ様です」
「よろしくな」
世良さんはオレを見てまず「お前、髪伸びたな」と言った。
「そうですか……?」
薫と同じ事言うなあと思っていると三神さんも口を挟む。
「切るか伸ばすかどっちかにしろよ」
「はあ」
「こっちの夏は暑いらしいから、長いと辛いぞ」
「夏…ですか」
夏までこっちにいないといけないのかと心の中でため息をついた。
でも、2人とも元気そう…というか、すげー生き生きしてる感じがする。
若返ってる…よなあ。
「世良も切ったら?」
「俺は超イケメンだからいいんだよ」
なんだそれ、と三神さんが笑っている。
――笑っている。
それもすっごく自然な笑顔で。
こんな風に笑うとこなんて見たことなかったから驚いた。
「世良、部屋に案内してくれよ。誠、明日から頼むな」
その笑顔のまま話しかけられて固まっていると、世良さんが「んじゃ、行くか」とオレの肩を叩いた。
ビルを出て、途中の公園を通って歩いていると潮の匂いがする。
スクールからそう遠くない所に借りてくれた部屋は1人で住むには十分な広さだった。
窓の外には夕暮れの海が広がっていて、写真みたいだ。
「お前、彼女と別れたんだって?」
「はあ」
「こっちで可愛い子、探してやろうか?」
「いえ、オレ、そんなに長くいるわけじゃないんで…」
世良さんは、そっか?と首を傾げつつ、「まぁ、セックスの相手ならいつでも言えよ」と笑った。
相変わらずだなこの人。
でもなんか、雰囲気変わったな。
東京だともっと軽くてチャラかったよなぁ。
余裕があるっていうか落ち着いてる感じがして、すげぇカッコいい。
でも、変わったといえば三神さんだな。
唯我独尊で王様みたいで、滅多に笑ったとこなんて見たことなかったのに。
あの人あんなに優しい顔できるんだ。
ああ、そういえば結婚したんだっけ。
相手はどんな女なんだろ。
「世良さん」
「ん?」
「三神さんってもう結婚したんですよね?」
「あー、一緒に住んでるけど入籍はまだだな。夏前に入れるって言ってた」
「そうなんですか…。相手って若いんですか?」
「いや、三神とタメかな? 学年だと1個下だったかな」
「へえ……」
「興味あんのか?」
「いえ…ただ、三神さんが結婚するなんて思ってなかったんで」
「三神が選ぶような女だから普通じゃねーけどな」
少し間をおいて、世良さんは「すげーいい女だよ」と囁くように言う。
その声は男の俺が聞いてもドキッとするくらいに甘い響きだった。
世良さんが女を褒めるなんて初めて聞いたかも。
そんなに色っぽいのかな。
「ま、ガキにはわからない魅力だけどな」
すぐガキ扱いして。オレもう27なのに。
結局、その後も何人かに髪が伸びたと続けて言われたので、切ることにした。
短く切って、ついでに金髪にしてツンツン頭にしたら、めっちゃ評判がよくなった。
だけど、ますますガキに見えるぞと世良さんは呆れた顔をする。
「あーでも薫と並んだら映えるんじゃね?」
「お、いいなそれ。今度2人でユニットやれよ」
三神さんも乗り気で世良さんと勝手に計画を立てようとしてる。
薫も5月にはこっちに来るらしいし、俺、いつ戻れるんだろ。
でも、入所希望者が多すぎてその対応と設備や部屋の準備に追われる。
ほんと、この人たち人気あるもんな。
自分の仕事もこなしていると、あっというまに時間が過ぎて春が近づいてきた。
狭い街だと思った。
東京の景色とは比べ物にならない。
早く戻りたい。
まだ飛行機から降りてもいないのに、オレは憂鬱な気分になった。
空港に迎えの車が来てくれていて、それに乗った。
都市高速という道路をしばらく走ると海がすぐ近くで、それは気に入った。
山しかない所で育ったから、海が見えるだけでアガる。
スクールに着くと事務所で三神さんと世良さんが迎えてくれた。
「お、来たか」
「お疲れ様です」
「よろしくな」
世良さんはオレを見てまず「お前、髪伸びたな」と言った。
「そうですか……?」
薫と同じ事言うなあと思っていると三神さんも口を挟む。
「切るか伸ばすかどっちかにしろよ」
「はあ」
「こっちの夏は暑いらしいから、長いと辛いぞ」
「夏…ですか」
夏までこっちにいないといけないのかと心の中でため息をついた。
でも、2人とも元気そう…というか、すげー生き生きしてる感じがする。
若返ってる…よなあ。
「世良も切ったら?」
「俺は超イケメンだからいいんだよ」
なんだそれ、と三神さんが笑っている。
――笑っている。
それもすっごく自然な笑顔で。
こんな風に笑うとこなんて見たことなかったから驚いた。
「世良、部屋に案内してくれよ。誠、明日から頼むな」
その笑顔のまま話しかけられて固まっていると、世良さんが「んじゃ、行くか」とオレの肩を叩いた。
ビルを出て、途中の公園を通って歩いていると潮の匂いがする。
スクールからそう遠くない所に借りてくれた部屋は1人で住むには十分な広さだった。
窓の外には夕暮れの海が広がっていて、写真みたいだ。
「お前、彼女と別れたんだって?」
「はあ」
「こっちで可愛い子、探してやろうか?」
「いえ、オレ、そんなに長くいるわけじゃないんで…」
世良さんは、そっか?と首を傾げつつ、「まぁ、セックスの相手ならいつでも言えよ」と笑った。
相変わらずだなこの人。
でもなんか、雰囲気変わったな。
東京だともっと軽くてチャラかったよなぁ。
余裕があるっていうか落ち着いてる感じがして、すげぇカッコいい。
でも、変わったといえば三神さんだな。
唯我独尊で王様みたいで、滅多に笑ったとこなんて見たことなかったのに。
あの人あんなに優しい顔できるんだ。
ああ、そういえば結婚したんだっけ。
相手はどんな女なんだろ。
「世良さん」
「ん?」
「三神さんってもう結婚したんですよね?」
「あー、一緒に住んでるけど入籍はまだだな。夏前に入れるって言ってた」
「そうなんですか…。相手って若いんですか?」
「いや、三神とタメかな? 学年だと1個下だったかな」
「へえ……」
「興味あんのか?」
「いえ…ただ、三神さんが結婚するなんて思ってなかったんで」
「三神が選ぶような女だから普通じゃねーけどな」
少し間をおいて、世良さんは「すげーいい女だよ」と囁くように言う。
その声は男の俺が聞いてもドキッとするくらいに甘い響きだった。
世良さんが女を褒めるなんて初めて聞いたかも。
そんなに色っぽいのかな。
「ま、ガキにはわからない魅力だけどな」
すぐガキ扱いして。オレもう27なのに。
結局、その後も何人かに髪が伸びたと続けて言われたので、切ることにした。
短く切って、ついでに金髪にしてツンツン頭にしたら、めっちゃ評判がよくなった。
だけど、ますますガキに見えるぞと世良さんは呆れた顔をする。
「あーでも薫と並んだら映えるんじゃね?」
「お、いいなそれ。今度2人でユニットやれよ」
三神さんも乗り気で世良さんと勝手に計画を立てようとしてる。
薫も5月にはこっちに来るらしいし、俺、いつ戻れるんだろ。
でも、入所希望者が多すぎてその対応と設備や部屋の準備に追われる。
ほんと、この人たち人気あるもんな。
自分の仕事もこなしていると、あっというまに時間が過ぎて春が近づいてきた。