大人になりたて男子は夢をみないはずだった

それから、毎日公園でその子と顔を合わせた。
ほんの数分くらいの間だけど、オレを見つけると嬉しそうに挨拶をしてくれるその子の笑顔に癒される。
桜もどんどん開いて満開になった頃、事務所で世良さんから話しかけられた。

「誠、この頃、機嫌いいじゃん」

「そうですか?」

「薫がいないから寂しいのかと思ってたぞ」

「何言ってるんですか」

「彼女でも出来たか?」

「出来るわけないじゃないですか。忙しいんですよオレ」

「そうか? なんかいい雰囲気だぞ?
 今なら苦手な萌えアニメのハーレム男子役もやれるんじゃね?」

……確かに苦手だけどさ
デレデレしたり可愛がったりするのが苦手で、どうしても上手く演じられない。

「ちょっと可愛い子と知り合ったっていうか、みかけたっていうか」

「へえ?」

「いや、いつも同じ時間に公園で犬の散歩してる子がいて」

「それでお前、いない時間があるのか」

「サボってませんよ」

「どこの公園?」

「そこの公園ですけど」

指差した先を見た世良さんは眉を寄せた。

「どんな子だよ」

「どんなって……なんかふんわりした癒し系っていうか。
 どこがどうってわけじゃないけど、可愛いんですよ。
 連れてる犬とそっくりな目して、オレのこと知っててファンって言ってくれて」

自分でも何言ってるかわかんなくなってたけど、世良さんは「そっか」とそれ以上のことは聞かなかった。

その翌日。
満開の桜に囲まれて、いつものベンチでその子と会っていた。
少し喋っていると、世良さんが公園に入ってくるのが見えた。
どうしたのかなと思った時、その姿を見たその子が口を開く。

「あれ、世良さん?」

―― え?

世良さんも、その子に「やあ」と手を挙げている。

(知り合い…?)

オレは驚いてしまい、2人の会話に入れないでいた。

「こんな時間にどうしたんですか?」

「ああ、誠、迎えにね」

「世良さん、今日も、ものすっっごくかっこいいですね〜!」

「ありがと」

「でも、こんな時間の公園にこれほど似合わない人もいませんよね! 浮きまくってますよね」

「悪かったな」

「夜だと絵になりますよね〜! 夜桜と写真撮ってデータくださいよ〜」

「ああ、わかったよ」

「でも珍しいから写真撮っていいですか?」

「誠も一緒に撮る?」

「わぁ〜〜! ほんとに!? いいんですか!?」

オレはわけがわからなかったけど、言われるがままに世良さんと並ぶ。
その子は頬を紅潮させて、写真を撮り始めた。

「すっごーーーーい! 背、高ーい!
 二人並ぶと破壊力1億倍増しになりますね!
 超萌えですよね! 気絶しそう!」

大喜びではしゃいでいる様子が、嬉しくて走り回ってる犬みたいで可愛すぎる。
それに、声がワントーン高くなっていて、本当に嬉しそう。
写真を撮られながら、その子をじーっと見つめていたオレは、「ありがとうございました」と礼を言われて我に返った。

「それじゃ、また」

手を振って去っていく姿を呆然と見送るオレに、世良さんは言った。

「あれ、三神の嫁だよ」

「えええええええええええええ!?」

思わず叫んでしまった。

「だ、だって、三神さんと同じ年って言ってませんでした!?」

「そうだよ」

「う、うっそおおぉぉ……」

「俺も初めて会った時、その反応したよ」

「まあ、今日は俺がおごるから飲みにいこうぜ」

「はい……よろしくお願いします…」

「沙理ちゃん、声優ヲタだからな。おまけに腐女子活動も復活したし、イケメン好き過ぎて俺の画像だけでとんでもない量あるからな。スクール落ち着いたらちょくちょく来るだろうから写真撮らせてやってよ」

オレはまだ信じられなかった。
でも、あれが三神さんの結婚相手だと思ったら妙に納得できた。
確かに、普通じゃない。

「でも、オレの年、知ってますよね、あの人」

「うん」

「栗咲さんってずっと敬語だったから。それに三神さんの奥さんなら尚更…」

「そーいう女なんだよ。今後会ったら誠でいいって言えばいいよ」

「そ、そうですね」

沙理さんっていうのか。
名前すら聞いてなかったことに気づきもしなかったな。
あの人に誠君って呼んでもらえたら…。
三神さんのものだけど、また会えるんだよな。
また笑ってくれるかな。
嬉しそうな姿を思い返していると、世良さんから肩を叩かれた。

「お前、そんな表情出来るんだな。沙理ちゃん、可愛いからなぁ」

「な、なに言ってるんですか」

「本気になるなよ? あの子は無理だよ」

絶対にな、と呟いた声が世良さんにしては低く響いて、いつまでも耳に残った。




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