大人になりたて男子は夢をみないはずだった

Side 世良

「誠が沙理ちゃんに会ったみたいだぞ」

誠が来た時から、なんとなく嫌な予感はしてたんだ。
早く紹介しろって何回も言ったのに。

「ああ、そうらしいな」

「知ってるのかよ」

「いつだったかな。公園で会ったって言ってたし、翌日はサインもらってたな」

さらっと言われて思わずため息をついた。

「お前……」

「散歩コースにいるみたいだからしょーがないじゃん」

「沙理ちゃん、誠のモロ好みってわかってただろ? 最初に嫁ってなんで紹介しなかったんだよ。
 初対面が人妻って認識するのとしないのとじゃ、心構えが全然違うだろ。
 それも、お前のだぞ? 最初にわかってれば――」

その先の言葉を言い淀むと、三神はまたさらっと流す。

「これであいつも少しは丸くなるだろ」

わざと放置してたのはわかった。
この性格悪いの何とかならねーのか。

「しょーがねーなぁ」

誠の性格を知ってるから、今のうちになんとかしてやりたい。
あいつのことだから、顔が見れればそれでいいと思うだろうけど。

「お前、そんなに世話好きだったっけ?」

「……お前らのせいだよ」

ドS男と天然女の夫婦。 
ほっといたらどんだけ被害が出るか。

「社長に頼まれてるからな」

俺が何回もため息をついていたからか、三神はぽつりとそう言った。
そういえばそうだったと思い出した。
誠が伸び悩んでいるから、また面倒を見て欲しいと言われてたんだっけ。

「誠は俺に似てるだろ?」

三神の変わりっぷりを見ていたから、確かに女に惚れさせるのは効果があるとは思う。
でも、相手は選ばないとだろ。

「だからってお前…」

面倒ごとを作るなよと言った俺を三神はじーっと見つめた。
そして、にっこり笑う。
うわ、やべえと思ったけど遅かった。

「頼りにしてるよ、夏海」

「お前、そんな顔すればいいと思ってんだろ」

でも、こいつのこんな顔を見るとなんとかするか、という気になってしまう。
それに沙理ちゃんを利用するようなことはしたくない。
あの子のことだから、誠の気持ちに気がつきもしないだろうけどな。
再会してずっと、俺が気にかけていることにも全く気がつかないのだから。

(とりあえず明日だな)

ホテルに戻る途中で公園を通ると、満開の夜桜がライトアップされていて思わず立ち止まった。
この桜の下であの子に会えるのかと思うと少し胸が高鳴る。
きっといつもと同じように俺を見て嬉しそうにするだろう。
でもそれは、俺の見た目にときめいているだけなのはわかってる。
だから俺もそれに応え続ける。
そうしていれば、きっと一緒に居られるはずだから。



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