大人になりたて男子は夢をみないはずだった
「お前、いいよなあ。住むとこ、建ったばっかなんだぞ」

借りてくれた部屋に向かいながら、誠は立地について説明を続ける。
眺めが良くて海も近いとか、バスルームから海が見えるから羨ましいとずっと喋っている。

「誠、こっちに来るの嫌がってなかった?」

「う、うんまあ、初めはな」

住めば都って言うだろ?と言う表情が柔らかくて、やっぱり変わったなあと思っていると

「あ、こんちは!」

急に誠が手を挙げ、声を弾ませて誰かに挨拶をした。
視線の先を追うと、小柄な女性が犬を連れて歩いてる。

「誠君、こんにちは」

にっこり笑うその人に、誠は見たことがないほど嬉しそうな顔を向けた。

「薫です。今日からこっちに来たんで」

僕を紹介しながら、連れている犬を撫でている。

「わあ、月守さん! 初めまして、三神沙理です」

よろしくお願いします、と丁寧にお辞儀をされた。

名前を聞いてすぐに三神さんの奥さんだとわかった。
慌てて頭を下げたけど、僕はものすっごくびっくりしていた。
だって、三神さんと同じ年って聞いてたのに、目の前のこの人は僕より年下に見える。
そして、見た目も声も誠の好みの人だった。

誠が変わったのは、この人のせいだと確信した。
でも――。
よりによって三神さんの奥さんが相手だなんて。
どうしてこんなことになってるのか、世良さんに教えてもらわないと。

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