嘘も愛して
「あ!空周!……とどちら様?」
いるみさんが一番に声を上げた。廊下で挟み込まれるように後方に立ち塞がる魔王さま、空周。その後ろからひょこひょこと顔を出しているガタイのいい男……ってあれは。
「なんだ、揃ってたのか。ちょうどいい」
空周はいるみさん、私、研真、百道くんを見やり、後ろ指をさした。指さしされたその男は体育会系のノリで片手をふった。
「音海だ。今日から御織に命預ける身になった!よろしく!」
爽やかにそう挨拶をした男は、くすんだグレージュの洒落た髪を揺らし、ニカッと一切の嫌味のない笑みをみせた。高身長な空周より少し抜きん出た背格好の兄貴肌の男を、私は警戒するように向き合った。
「待って」
一同の視線が、私に集まる。男は、自分より背の低い私の声に反応して、徐に視線を落とす。
「あー!保泉じゃん!」
弾かれるようにそう叫んだ男と私は、顔見知りだった。相変わらずニカニカと爽やかな笑みで迎えてくれる音海さんに、私は一つだけ確認しておきたいことがあった。
「音海さん、抜けたんですか……?」
すっ……と、爽やかお兄さんの顔色が暗くなる。音海さんは、私が皇帝流座にいた時に知り合った人で、私が抜けた後も属していたはず。そんな彼が新しいチームに顔を出してこれからよろしくだなんて、何がなにやらな私は聞かずにはいられなかった。