嘘も愛して
「あんたはいつも勝気なくせに、あのクソクズの前だと怖気付くのは何でだ」
「え……。無意識だから……」
そっか、傍から見たらそう見えるんだね。改めてその事実に思考を巡らせると、苦笑いがこぼれる。
「そうだね、怖いんだろうね、嘘をつかれるのも、嘘を信じれないのも、何もかもが」
「人を信用する方が利口じゃねぇだろ」
「そうだよ。信じる方が気持ちが楽だから、みんな誰かに心を委ねるのも分かる。その信頼できる相手がいる幸せを知っちゃったら、戻れないんだよ」
「あんたは自分から手放したんだろ?」
「私が私でいられなくなる相手に、委ね続けれる?」
目を細めほくそ笑む私に、目を丸くする空周。暗い顔つきから徐々に活き活きと変わったのが意外だったのかな。
数秒、見つめ合った後、彼は満足そうな余裕のある表情に戻る。
「……いい子だ。行くぞ」
ほんの少しだけ、ほんの少しだけ嘘のない、温かい笑みを向けてくれた。そんな気がした。
立ち上がって私の横を通り過ぎるついでに、大きな手で私の頭を撫でる。
すぐ頭撫でる……。