〜Midnight Eden Sequel〜【Blue Hour】
あっちもこっちも喧嘩をするなら余所でやってもらいたい。
九条の身分を知っている店主が先ほどからアイコンタクトを送ってきている。店主から感じ取れるメッセージは『この場を何とかしてくれ』だ。
(はぁー。もう。仕方ねぇな……)
別れ話真っ最中の男女と血気盛んな男二人組の喧嘩、優先で止めるなら男二人組の方だろう。男達の口論が殴り合いの喧嘩に発展されたら店に被害が出てしまう。
食べかけのラーメンと餃子を名残惜しく見つめつつ、九条は立ち上がる。向かう先は今にも取っ組み合いを始めそうな二人の男の席だ。
『お兄さん達、そんなにカッカしないで』
『なんだお前。関係ない奴は引っ込んでろ』
ひとりは唾を飛ばして九条を怒鳴りつけ、もうひとりは話に割り込んだ九条を睨みつけている。
予想通りの反応だが、こちとら天下の警視庁の刑事だ。血の気の多い男に睨まれた程度で怯《ひる》むようでは、刑事は務まらない。
『確かにお兄さん達が喧嘩しようと俺には関係ないけど、これ以上は店に迷惑だからね。ちなみに警察です。わかってると思うけど警視庁すぐそこだからね?』
九条は警視庁の方角を指さしながら男達に向けて警察手帳を提示した。思わぬ警察の介入にわずかだが彼らの怒気が削がれ、二人の男は表情を強張らせた。
『け、刑事がこんなところで油売ってていいのかぁ? 俺らの税金で生活できてるくせによぉ』
『そうだっ! ちゃんと仕事しろっ』
『お兄さん達も腹減ったままじゃ仕事にならないよね。刑事も昼飯くらい食わせてよ。空腹で走れなくて犯人取り逃がしたら困るでしょう?』
九条が男達をなだめすかしている間に彼の視界を横切った影がある。九条の警察手帳を目にして顔を強張らせた人間がもうひとりいた。例のホスト風の男だ。
“タイガくん”は九条の視線を避けるように自分の分だけの会計を済ませ、いまだ泣いている女を置いてきぼりにして店を出ていった。
男が食べていたラーメンはまだ半分も残っている。九条が素性を明かすまでは泣きわめく女を放置して呑気にラーメンを食べていたくせに、急に逃げるように店を去った男の行動は不可解だ。
あの男が一刻も早く立ち去りたかった理由として考えられるのは、警察に探られるとまずい何かを抱えていたから。
大方、女から金を騙し取っていたクチだろう。不健康な肌や髪の質感から違法薬物の使用も疑える。
叩けば埃が出るかもしれないが、今は出て行った男を追う気にはなれない。
九条の身分を知っている店主が先ほどからアイコンタクトを送ってきている。店主から感じ取れるメッセージは『この場を何とかしてくれ』だ。
(はぁー。もう。仕方ねぇな……)
別れ話真っ最中の男女と血気盛んな男二人組の喧嘩、優先で止めるなら男二人組の方だろう。男達の口論が殴り合いの喧嘩に発展されたら店に被害が出てしまう。
食べかけのラーメンと餃子を名残惜しく見つめつつ、九条は立ち上がる。向かう先は今にも取っ組み合いを始めそうな二人の男の席だ。
『お兄さん達、そんなにカッカしないで』
『なんだお前。関係ない奴は引っ込んでろ』
ひとりは唾を飛ばして九条を怒鳴りつけ、もうひとりは話に割り込んだ九条を睨みつけている。
予想通りの反応だが、こちとら天下の警視庁の刑事だ。血の気の多い男に睨まれた程度で怯《ひる》むようでは、刑事は務まらない。
『確かにお兄さん達が喧嘩しようと俺には関係ないけど、これ以上は店に迷惑だからね。ちなみに警察です。わかってると思うけど警視庁すぐそこだからね?』
九条は警視庁の方角を指さしながら男達に向けて警察手帳を提示した。思わぬ警察の介入にわずかだが彼らの怒気が削がれ、二人の男は表情を強張らせた。
『け、刑事がこんなところで油売ってていいのかぁ? 俺らの税金で生活できてるくせによぉ』
『そうだっ! ちゃんと仕事しろっ』
『お兄さん達も腹減ったままじゃ仕事にならないよね。刑事も昼飯くらい食わせてよ。空腹で走れなくて犯人取り逃がしたら困るでしょう?』
九条が男達をなだめすかしている間に彼の視界を横切った影がある。九条の警察手帳を目にして顔を強張らせた人間がもうひとりいた。例のホスト風の男だ。
“タイガくん”は九条の視線を避けるように自分の分だけの会計を済ませ、いまだ泣いている女を置いてきぼりにして店を出ていった。
男が食べていたラーメンはまだ半分も残っている。九条が素性を明かすまでは泣きわめく女を放置して呑気にラーメンを食べていたくせに、急に逃げるように店を去った男の行動は不可解だ。
あの男が一刻も早く立ち去りたかった理由として考えられるのは、警察に探られるとまずい何かを抱えていたから。
大方、女から金を騙し取っていたクチだろう。不健康な肌や髪の質感から違法薬物の使用も疑える。
叩けば埃が出るかもしれないが、今は出て行った男を追う気にはなれない。