〜Midnight Eden Sequel〜【Blue Hour】
 口喧嘩の仲裁を終え、やっと店が静かになった。伸びた麺とぬるくなったラーメンのスープを胃に流し込んでいると、胸ポケットにあるスマートフォンが振動した。

(今度はこっちかよ。ゆっくり飯も食ってられねぇな)

着信表示は相棒の南田康春。特盛餃子の最後のひとつを口に入れたまま、彼は着信に応答した。

『もひもーひ』
{お前どこでサボってるんだよ。しかも何か食ってるな?}
『サボりじゃねぇし。いつものラーメン屋で遅い昼飯。で、何?』
{今朝、杉並で発見されたバラバラ死体の身元が割れたぞ}

 バラバラ死体と聞いても平気で食事を続けられるメンタルの強さは、刑事特有のものだろう。警視庁に配属されて今年で4年目、手足のない死体や凄惨な現場は何度も見てきた。

『もうわかったのか。身元がわかる所持品は何もなかったのに』
{ガイシャは9年前にストーカー行為で聴取を受けていた。その件は示談になったそうだが、聴取の時に採取した指紋と死体の指紋が一致した。15時に捜査会議だから早く戻ってこい}
『はいはい』

束の間の昼休憩も、隣席の湿っぽい別れ話を聞かされたあげくに喧嘩の仲裁でまったく休息にならなかった。

 あの“タイガくん”に置き去りにされた地雷系の女はまだ泣いていた。時折、九条を盗み見てわざとらしく泣き真似をする彼女を無視して店を出る。

警察は何でも屋ではない。嘘泣きの女の面倒まで見きれるかと、秋晴れの空に向かって彼は小さく吐き捨てた。
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