〜Midnight Eden Sequel〜【Blue Hour】
 仮眠室のブラインドカーテンを閉じた九条大河は簡易ベッドに寝転がった。そのまま、浅い眠りと鈍い目覚めを行ったり来たりの九条の耳にスマートフォンの着信音が届く。

 着信音の主はプライベートのスマホだった。トークアプリに通知が一件、メッセージの送り主は南田だ。

〈午前4時37分、娘誕生。母子共に健康。〉たった二行の素っ気ないメッセージが、凍えた心を温めてくれる。土砂降りの嵐の最中に、そっと差し出された傘みたいだ。

『そっか。産まれた……。良かった……』

 陣痛が始まったと義両親から連絡を受けた南田は、刑事の仕事と妻の出産、どちらを優先すべきか迷っていた。
苦悩して動けずにいる南田の背中を押したのは九条だ。

刑事は他にいくらでもいる。けれど南田の妻と子にとっては、南田だけが夫であり父親だ。同僚達に送り出されて妻の待つ病院に走り出す南田の背中は、これまでで一番、頼もしかった。

 現在時刻は10月24日午前5時19分、ブラインドカーテンを開ければ、間もなく夜明けを迎える群青《ぐんじょう》の晴れた空が映り込む。

『よりによってアイツと同じ誕生日かよ……。強がりな女にならないといいけど』

あれだけ悩んだ娘の名前はそのうち耳にタコができるほど聞かされるから、今は聞かなくてもいい。

『ハッピーバースデー……』

 いずれ会うことになる、まだ名も知らぬ相棒の娘と、忘れられない女の名前を、空気に乗せて呟いた。


 ──あといくつ夜を越えたら君を忘れられるだろう?



【Blue Hour】―END―
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