ハイスペ上司の好きなひと
一瞬何を言われたのか分からず拍子抜けし、頭の中で言葉を噛み砕いてようやく手伝いを申し出されたのだと理解した。
「いや、そんな…申し訳ないですし」
「1人分の荷物ならそんなに手間じゃない。それに業者に頼むのを大型の家具だけにすれば費用も抑えられるんじゃないか?」
「そ、それは…」
確かにそうだ。それを言われてしまえばこの話が酷く魅力的に聞こえてしまう。
費用をかけなくていいなら是非そうしたい。
その分生活費に回せるから、今後の気持ちの余裕が全然違ってくる。
その心の揺らぎを感じ取ったのだろう、飛鳥は唇の端を上げて笑ってみせた。
「言ったろ、遠慮なく頼れって」
「うっ…」
これ以上の断り文句が見つからず、降参して次には「お願いします」と口走っていた。
申し訳ないとは思いつつも、こちらの事情を思いやってもらって嬉しくないはずがない。
これ以上優しさに触れて更に好きになってしまったら苦しいのは自分なのに、断りきれない自分自身が恨めしい。
そんなこちらの心情などつゆ知らず、片付け頑張れよと頭を軽く撫でてリビングへと消えていく飛鳥の背中に無意識に視線を送る。
居候という名の同居生活もあと少し。
少しでも寂しいと思ってくれないかな、なんて無駄な願いを胸に秘めながら、同時に痛む心を隠して私室に繋がるドアをゆっくりと押した。