ハイスペ上司の好きなひと
ツンと喉の奥が痛み、あまりの辛さに頭がうまく回らなくなる。
「…えっと…なんていうか…七瀬さんの言うことは、あまり気にしないで下さいね」
どの立場から言ってるんだと思ったが、何かを言わないと泣いてしまいそうだった。
「彼女とは重きを置く場所が違うだけで、藤宮さんはすごく素敵な女性ですし…私は、飛鳥さんが好きになるのも…当然だって、思います」
泣くな。
耐えろ。
奥歯をキツく噛み締め、溢れそうになる涙を必死で耐えた。
視界は既に歪んでいたが、それでもここでは、飛鳥の前だけでは泣きたくなかった。
どうせこれで終わりなのだ。
それならいっそ最後まで彼の中で良い後輩だったくらいには思われたい。
その一心で感情を押し殺し、準備を整え終えて布巾を盆に乗せた。
「では、私は失礼します。タイミングが悪くてすみませんでした」
あともう少し。
そう思って気が抜けてしまったのだろう、振り返った拍子にぽろりと堪えきれなかった涙が落ちてしまった。
「古賀、待っ…」
「っ!」
肩を引かれたその瞬間、一瞬だけ、しかしはっきりと顔を見られてしまった。
こぼれ落ちた涙と一緒に。