ハイスペ上司の好きなひと
そんな人と気後れせずやっていけるだろうかと内心悶々としていると、「あとね」と藤宮はクスクスと笑った。
「すっごく男前だから、会ったらきっとびっくりするよ」
「…そんなにですか?」
「彼の異動が決まった時の女性社員達の嘆きようは凄かったなあ」
「おお…」
一体どれほどの容姿なのかと少しだけ期待する。
それと同時に、そんな男前と支社に赴いて何も無かったのだろうかと無粋な事を思ってしまったが、彼女の言い方から察するに藤宮にその気は無かったのだろう。
以前たまたま見かけてしまった彼女のプライベートのスマホの待ち受け画面に映った男性があまりに美形で芸能人かと問えば、まさかのそれが旦那だというのだから彼女は本当に旦那以外興味はないのだろう。
紫とて結婚という言葉を意識しない訳ではない。
最近になって友人達からの結婚報告も段々と増えてきた。
けれど自分には今現在相手どころか過去に交際したのも年単位で前の話だ。
新卒時に交際していた男はいたが、生活スタイルが合わずあえなく破局。
ワーホリ期間は言語の壁を壊せず友人はできたが恋人までには至らず終わった。
もう少し今の仕事に余裕が出来ればぜひそちらにも力を注ぎたいと常々思ってはいるが、それも一体いつの事になるやらだ。