ハイスペ上司の好きなひと
部下として信頼されているのか、単純に女として意識されていないのか、どちらにせよ胸が痛くなる言葉だった。
「そんな事より、他の店回らなくていいのか?」
「あ…そうですね、見たいです。後でクレベール広場の方も行ってみたいんですけど良いですか?」
「ああ、あのツリーの装飾が凄いところか」
「もう少ししたら日没ですし、イルミネーションも少し見てみたくて」
「分かった、そうしよう」
尊敬する上司から信頼を得られてこれ以上ない程嬉しい筈なのに、それ以上を求めてしまうだなんてあわよくばを期待して馬鹿みたいだ。
本当に自分が嫌になる。
胸の内で広がりつつある醜い感情に目を逸らして無理やり笑顔を取り繕い、目に入る可愛い小物達に癒されながら足を進めていく。
そしてふと足を止めた屋台で見つけた、とりわけ惹かれたそれを手に取った。
「それは置物か?」
「いえ、マグネットみたいです。可愛い…」
飛鳥が置物と見紛うくらい立体的なそれは手のひらサイズのマグネットで、アルザスの街並みや大聖堂を模したものなど色々な種類があった。
陶器の置物だったりスノードームだったりも勿論可愛くて欲しいけれど、今は居候の身だし持ち帰る際に運悪く壊れたりしたら泣いて済む気がしないので諦めていた。
けれどこれならば気兼ねなく持って帰れるし実用性もある。
そう思った紫の行動は早く、特に気に入った2つを選んで購入した。