ハイスペ上司の好きなひと
まだ日が落ち切っていなかったこともあり明るいうちに大きなもみの木のツリーを拝み写真に収め、周辺にあった可愛らしい雑貨店にも立ち寄った。
治ったはずの物欲にまたも火がつき、厳選に厳選を重ねてマグカップと真由菜へのお土産用に小さなキーホルダーを買って厳重に梱包してもらい店を後にすれば、いつのまにかすっかり日が落ちていて昼間とは違った幻想的な光景がそこに広がっていた。
イルミネーションが街を彩る様は美しいの一言に尽きるが、同時に冷え込みも辛くなり飛鳥の提案で温かい飲み物を買って一休みすることにした。
壁に背を寄せ再びツリーを見上げれば、キラキラと輝くそれは昼間に見た装飾とはまた違った顔を見せていて、思わず感嘆の息が漏れた。
さすがクリスマスマーケットの聖地と言われるだけあって満足の一言に尽きる半日だった。
気を回してくれたラファエルには本当に感謝しなければ。
そして何より、こうして想いを寄せる人と回れた事も大きいだろう。
デートのようで、楽しかった。
チラリと飛鳥を見上げれば、同じようにツリーを眺めてぼんやりとしていた。
その瞳の先には全く違う女性が浮かんでいるのだろうが、それでもやはり、紫にとって特別な日になった事は変わらない。
今日の出来事はいい思い出として胸にしまっておこう。
飛鳥へのこの気持ちと一緒に。
そうすればきっといつか、風化してなくなってくれるはずだから。
人知れず小さく息を吐き、紫は未だ湯気の立つカップに口をつけた。