ハイスペ上司の好きなひと
ーーああもう、今日もあんまり眠れなかった…
週末の明けた月曜日、そんな風にうんざりとしながら、紫は重い体を起こしてアラームを止めた。
ここ最近、隣人の生活音に悩まされる日が続いている。
ブラック企業を揉めに揉めて退職し、雀の涙のような退職金を携えてワーホリに挑んだものだから、ハッキリ言って紫にはお金の余裕が無かった。
だから帰国して選んだのは、会社から1時間の距離にある家賃の安さが売りのアパートだった。
安さの原因はその壁の薄さ。
入居して半年ほどはそれほど困ることはなかったのだが、ここ最近隣人の恋人が出入りするようになってから夜中の激しい怒号に悩まされている。
女性が言い返している事からDVでは無さそうなのだが、まあ喧嘩の激しさがすごい。
しかも日に日にエスカレートしているものだから仕事に疲れて帰ってきて眠たいはずなのに安心して眠れない。
昨日も寝ついたのは2時を過ぎてからで、今現在6時。
この家の環境ではリモートワークなど音漏れが気になって出来たものではないし、何より今日からは新しい上司が帰国する。
出社しないわけにはいかない。