彩度beige
それは・・・、きっとその通り。

緋山くんが来ることがわかっていたら、私は朝から、とにかく落ち着かなかっただろうと思う。

「あ・・・、えっと・・・、パン、買いにきてくれたんだよね。好きなものある?メロンパンは焼きたてだからおすすめだよ」

緋山くんが、「スピカ」に来たその理由。

他の理由を語られることがないように、私は素早く仕事モードで言い切った。

緋山くんは、考えるように少しだけ間をおいてから、「じゃあ1つ買おうかな」と言ってメロンパンをトングで取ると、ついでにクロワッサンとクロックムッシュをトレーにのせた。

「はい。レジお願いします」

「あっ・・・、はい!ありがとうございます」

私は、持っていた残り数個のメロンパンを急いで商品棚へと全て並べて、緋山くんからトレーを受け取る。

と、レジに行き、ひとつひとつ、パンをトングで挟んでビニール袋に入れていった。

「・・・あのさ、2人で話がしたいんだけど。仕事って、何時に終わる?」

レジの前。向かい合った緋山くんに問いかけられて、私はピタ、と一瞬手を止めた。

「連絡してもはぐらかされるし。『Vulpecula』だと一葉さんに邪魔されるしな。もう、直接会って話す方がいいと思って」

「連絡してもはぐらかされる」「一葉さん」というワードを聞いて、私は危うく手を滑らせそうになってしまった。

ぎりぎりで、パンは無事、きちんと袋に入ったけれど。

「・・・水谷が言ってた好きな人って、どう見ても一葉さんだろ?彼氏じゃないとは言ってたけど・・・、いい感じって、確かにな」

ーーー先日の「Vulpecula」での・・・、納品日のことを思い出す。

あの時、まだ数回しか会ったことのない、芳江さんでさえ私の気持ちに気がついていたようだった。

それならば・・・、元カレである緋山くんにそうだと推測されるのは、もう、仕方がないことかもしれない。
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