彩度beige
「へえ・・・、いつかは店とか出したいの?」

「・・・え?」

「雑貨屋。どこかで働くんじゃなくて、水谷さんが、自分の店を持ちたいのかなって」

「う、ううん!そういうのは特にないんだけれど・・・」


(自分の店・・・、考えたこともなかった)


言われて初めて意識する。

そうか、そういう働き方もあるんだな。

食品会社であれ雑貨屋であれ、「雇ってもらう」ことが当たり前のように思っていたけれど・・・。

「・・・まだ、具体的なことは全然考えていなくって。でも、そうだね・・・。口で言うだけではなくて、そろそろちゃんと考えて、行動に移していかないといけないね・・・」

子どもの頃に無邪気に夢を見ているように、ただ、「これからのこと」を語っても。

動かなければ、私はきっと、ずっと一生実家暮らしで、パン屋のパートを続けてる。

「・・・どうだろうな。考えることは必要だけど、焦らなくてもいいんじゃない?パン屋はパン屋で楽しそうだし。これからゆっくり考えていけば」

「え。・・・そ、そうかな」

「うん。パン屋だってまだ1年で、やっと元気になってきたんでしょ?行動しない言い訳並べて何年も・・・っていうなら焦るべきだと思うけど。水谷さんはそうではないし、少しずつそうやって考えているんだし。焦らなくていいと思うよ」

「・・・・・・」


(そ、そうなのか・・・)


一葉くんは、第一印象とだいぶイメージが変化した。

飲み会での第一印象は、「クールでちょっと怖い人」で、「壁が厚く、どちらかというと人に興味がなさそう」だった。

だけど・・・、取材だからって理由もあるとは思うけど、話をしっかり聞いてくれるし、寄り添ってくれている感覚がある。

相変わらず無表情だし、口調は淡々としているけれど。

それでも・・・、今の一葉くんに対する印象は、「優しい」に私は変わってる。

「・・・なに?」

「あ、ううん。一葉くん、あんまりしゃべらないイメージだったから。たくさん話してくれるんだな、と」


(思わずじっと見てしまった・・・)


意外だし、嬉しい変化だったから。

だけど「あんまりしゃべらないイメージ」なんて、本人に言うのは失礼だったかな。

「・・・、話すのは基本得意じゃないよ」

「あ・・・、そっか。でも・・・、うん、今は取材だもんね」

「・・・まあ、それもあるけど・・・」

一葉くんが言葉を濁す。

なんだろう。

私が首を傾げると、一葉くんは、照れたように視線を逸らした。

「・・・水谷さんは同い年だし。なんとなく、話しやすいんだと思う」

「・・・」

「なんとなく」って、すごく感覚的だ。

私はそれを、嬉しいなってすぐに思った。

それは多分、私も彼と同じ感覚でいるからなんじゃないかと思う。








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