彩度beige
気がつけば、17時半を過ぎていた。

「疲れただろうから」と、一葉くんが取材を中断しなければ、時間を気にせずあのまま話していただろう。


(3時間以上も話してたんだ。でも、不思議なくらい疲れてないな・・・)


最初は緊張していたけれど、一葉くんと話すのは、とても楽しく時間を忘れた。

落ち着いた、低い声。

優しい口調の彼の言葉は、耳にとても心地が良くて、すごく話しやすかった。


(一葉くんは取材する側だから疲れただろうと思うけど・・・)


コーヒーもごちそうしてくれて、「車で来てるから家まで送る」とまで言ってもらった。

私にとっては、至れり尽くせりすぎる対応だ。

「・・・これ。よかったら助手席乗って」

カフェを出て、ホテル内の駐車場を一緒に歩き、「これ」と示されて助手席のドアを開けられたのは、自動車に疎い私でも知っている、黒いピカピカの高級車。

私は心の中で、「えっ!」と、驚きの声を上げてしまった。


(一葉くん、こんな車に乗ってるの・・・!?)


・・・いや、似合うけど。

一葉くんのルックス的には似合うけど。

でも・・・、バイトをしながら生活しているであろう小説家の彼が、こういう車に乗っているとは全く想像していなかった。


(もっとこう、コンパクトでカジュアルな感じの車を想像してたから・・・)


「あ、ありがとう・・・」

誰かに借りているのかな。

戸惑いつつも助手席に乗り、シートベルトをしっかり締める。

一葉くんは、運転席にまわってシートの下に長い足を滑り込ませると、慣れた様子でエンジンをかけ、ハンドルを操作し始めた。


(・・・この感じ・・・、誰かに借りたわけでもなさそうだな・・・)


車がゆっくり動き出し、ホテルの駐車場から外に出た。

一葉くんの運転技術も高いのだろうけど、さすが高級車、乗り心地がとてもいい。

「・・・シートの位置とか、適当に直していいよ」

助手席でもぞもぞと動いていると、気になったのか、一葉くんが声をかけてきた。

私は「うん」と軽く相槌を打つ。

「大丈夫。ただ、乗り心地がよすぎて逆になんだか落ち着かなくて」

いろんなお尻の位置や体勢を試してみたくなり、何度か座り直してしまった。

一葉くんが小さく笑う。
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