彩度beige
結婚当初の生活は、楽しかったしラブラブだった。

旅行に行く予定を立てたり、子どもはいつにする?なんて話をしたり。

毎日お花を飾って家をきれいに整えて、元々好きな料理はさらに上達するよう腕を磨いた。

出掛けない日ももちろんきちんとメイクして・・・。

敦也の経営者仲間の奥さまたちとも親しくなって、一緒にランチに行ったり遊びに行ったり、「子どもが生まれたら」と、お受験情報を教えてもらったり。

毎日が背伸びの連続で、「がんばってなんとかセレブ妻」という感じは抜けていないと思うけど、だいぶ馴染んできたんじゃないのかな。

そんなふうに、考えていた頃のことだった。





「衣緒、今着てる服ってどこで買った?」

結婚して、8か月を少し過ぎた頃。とある土曜の夜だった。

仕事を終えて帰宅した敦也に問われ、私は「『Lynx』って、東通りの雑貨屋さんだよ」と、すぐに答えた。

「SNSで見て、かわいいなって思ってたの。地元の作家さんの手作りで、一点ものなんだって」

ほぼ一目惚れだった、ボタン開きのワンピース。

黒地に印象的な花柄で、カジュアルにも、きれいめにも使えそうな服だと思った。

あの店の雑貨や服は、昔からずっと大好きだ。

上機嫌で答える私に、敦也は「はあ」と不機嫌そうに息を吐く。

「東通りの雑貨屋って・・・、あの安っぽい感じのところだろ?いい加減、ああいうところで買うのやめろよ。俺の稼ぎが少ないみたいじゃん」

「えっ・・・!?」

そんなつもりは全くなかった。

ただ、お気に入りの店で、かわいいなって思った服を、選んで買っただけなのだけど・・・。

「・・・家でしか着ないよ。それに、安っぽくは見えないし、すごくかわいかったから」

「は?安っぽくは見えないって、素人が作ったものだよな?それに、かわいいとかかわいくないとか・・・、いい年して、そういう基準で選ぶの止めろよ。衣緒、俺の嫁って自覚ある?ちゃんとしたブランド物のさ、もっと高価な服着ろよ」

「・・・」

結婚生活が進むにつれて、価値観が変わったのだろう、敦也は徐々に私に冷たくなってきた。

以前は、「衣緒はナチュラルで清潔な感じがいい」とか、「いつまでも『普通の感覚』を忘れないでいてくれよ」なんて言ってくれていたけれど、近頃は、気持ちが変わってきたらしい。

今の敦也は、人から「すごい」「うらやましい」と言われることを、なによりも重要視するようになってきた。

仕事の実績はもちろんだけど、車や服や持ち物も、わかりやすく「ハイブランドのもの」でなければ許せなくなっているようだ。
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