彩度beige
会社を経営している敦也には、同じく経営者の知り合いが多くいる。

その中で、様々な駆け引きがあるのだろうか・・・、敦也は、自分が優位でいたい気持ちがとても強そうだった。


(大なり小なりそういうものはあるのだろうと思うけど、今の敦也は、それが行き過ぎている感じもしてる・・・)


仕事をがんばってくれているのはもちろんわかる。

そして今、私は敦也がそうして働いてくれたお金で生活してる。

生活費は充分もらっているし、それはとてもありがたく、だからこそ・・・、自分の気持ちは閉じ込めて、敦也の言う通りにハイブランドの服だけを着るべきなのかもしれない。

でも・・・、やっぱり、せめて家にいる時ぐらい、ブランドなんて関係なしに、好きな服を着ていたい。

そう、思ってしまうのだけど・・・。

「衣緒、俺と結婚したのにさ、いつまでたっても普通っぽさが抜けないよな?一緒にいる俺が恥ずかしいんだけど」

「えっ・・・」


ーーー「恥ずかしい」。


その言葉は、私の胸をグサリと刺した。

以前は褒めてくれていた「普通の感覚」。

それが、今は「恥ずかしい」ーーー・・・。

褒めてくれてはいたけれど、敦也と結婚したのだから、それなりに、TPOは考えてきた。

たまに家でこういう服は着るけれど、敦也とのお出かけや、経営者仲間の奥さまたちと出かける時には、敦也が好むハイブランドの服を着て、高いヒールの靴を履く。

ヘアケアやスキンケア、メイクももちろん欠かしてないし、家事だって、自分なりに毎日頑張っているつもり。

でもーーー、普通っぽさが抜けない私は恥ずかしい?

家に一人でいる時も、好きな服を着たらダメ?

「恥ずかしい」というひと言は、それまでの私を全て否定されたような感覚がした。

「・・・あーあ、失敗したかな」

ひとり言のように敦也が呟く。

この「失敗」という意味は、もしかして、私との結婚を指しているんだろうかーーー。
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