彩度beige
(背も高いしスタイルいいし、何着ても似合うんだな・・・)


思わず見惚れそうになり、私は慌てて目を逸らす。

このままうっかり、好きになったりしたら大変だ。





まずは・・・と、東通りの「Lynx」に真っ直ぐ向かう。

春だとはいえ、まだ3月に入ったばかりなので、やはり風が吹くと少し肌寒い。

カーディガンを着てきてよかったな、と、今朝の自分の判断に、頭の中で丸をする。

「あ・・・、あそこのお店なの」

東通りを歩く中、「Lynx」の看板が目に入り、私はお店を指差した 。

店の前には、春らしい花が飾られている。

「へえ・・・、なんかかわいいな」

「でしょ。お店の中もかわいいんだよ」

「かわいい」という評価をもらい、上機嫌になる私。

ドアを押して中に入ると、カランカラン、と、小さいカウベルの音が鳴る。

「いらっしゃいませー。・・・って、あら!衣緒ちゃんこんにちは」

「こんにちは」

私はお店の常連なので、店主の智津(ちづ)さんともちょっとした会話をする仲だ。

いつの間にか「衣緒ちゃん」「智津さん」と呼ぶ間柄になっている。

「・・・ちょ、ちょっとちょっと!」

一葉くんと2人でお店の中に入るなり、智津さんが、ささっと私に近づいた。

そして、「彼氏?めちゃくちゃかっこいいじゃないっ!!」と、興奮気味に私にこそっと耳打ちをした。

「ち、違います・・・!」

私は頬を熱くして、首を振って即座に否定。

誤解されてしまったら、一葉くんに申し訳なさすぎる。

「仕事・・・、相手みたいなもので」

「仕事?衣緒ちゃんパン屋で働いているのよね。仕事でここに来るってなあに?」

「え!?・・・あ、えーと・・・、私というか、あの方のお仕事の関係で」

「・・・一緒に雑貨屋に?」

「そ、そうです」

「ふーん・・・・・・、まあいいわっ!新しいものたくさん入荷したからね。2人でゆっくり見ていってっ」


(な、なんか、信じてもらえてないような・・・)


やけににやにやしていた智津さんの様子を見ながらそう思う。

一葉くんは無表情で近くの雑貨を見ているけれど、今の会話は耳に入っていなかったかな。

気になりつつも、平静を装って彼に問う。

「あ、えっと・・・、普通に見て回ればいいのかな」

「うん。普段通り。好きなように見てもらえたら」

「わ、わかった」


(と、返事をしたものの・・・、普段通りになんて見れないな・・・)


「Lynx」にはいつもひとりで来店し、お店の中を、隅から隅まで見て回る。

心の中で、「かわいい!」を連呼しながら・・・、智津さんが近くにいる時は、一緒に感想を言い合って、盛り上がったりもするのだけれど・・・。
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