彩度beige
一葉くんが一緒だと、普段通りというのは難しい。

どうしたって緊張してしまい、ぎこちない感じで店内をうろうろしていると、後ろから、ちょんちょん、と肩を軽くたたかれた。

「水谷さん、こういうの好き?」

振り向くと、一葉くんは猫かクマであろう、モフモフとしたぬいぐるみを右手に持っていた。

わっ、と、私は目を輝かせる。

「う、うん!好き」

手のひらサイズのぬいぐるみ。

モフモフとした茶色い毛に、つぶらな瞳が隠れてる。

手足が短く、しっぽはなんともいえない微妙な長さだ。


(か、かわいい・・・!!ひとりだったら発狂しそうなかわいさだわ・・・!!)


一葉くんの前なので、なんとか興奮を抑えているけれど。

触りたくって、私はうずうずしてしまう。

「・・・はい」

一葉くんはクスッと笑い、私にぬいぐるみを渡してくれた。

受け取った猫かクマであろうぬいぐるみが、私の両手にすっぽり収まる。


(わ、わあ・・・、かわいい・・・!!)


なんともいえないフォルムと表情とモフモフ感。

ぬいぐるみを見つめながら心の中で騒いでいると、一葉くんがふっと笑った。

「こういうものが好きなんだ?」

「・・・う、うん。年甲斐もなくって思うけど」

「なんで。好きなものってずっと好きでしょ?別に、いくつだからとか関係ないよ」

一葉くんが微笑んだ。

その表情に私はドキッとしながらも、同時にとてもホッとした。


(一葉くんは、そう思っている人なんだ・・・)


好きなものを、ずっと変わらず好きでいい。

敦也と別れて、自分でもそう思えるようになってきてはいたけれど、一葉くんに言われると、より一層嬉しくなった。

そこから、緊張が少し和らいだので、さっきより、じっくりと店内を見られるようになってきた。

「これかわいい」「確かに」なんて、2人で会話も交わしつつ。


(・・・そういえば、雑貨屋さんに男の人と来るなんて、生まれて初めてかもしれないな・・・)


敦也とは、一度だけ「Lynx」のお店の前まで来たことはある。

けれど、「恥ずかしいから外で待ってる」と敦也が言ったので、お店の中にはひとりで入っていったんだ。

敦也を待たせていると思うと、気になってゆっくり見ることができなくて、あの時はすぐにお店を出たっけな。

だけど・・・。
< 33 / 104 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop