彩度beige
それから、途中休憩を交えて他の雑貨屋さんを数軒回った。

初めは緊張していたし、頼まれたとはいえ、一葉くんを私の趣味に付き合わせるのは申し訳ない気がしていたけれど、その感情は、いつの間にか消えていた。

ただ、楽しいなって感情だけで、あっという間に時間が過ぎた。

それは、一葉くんが取材対象の私に合わせてくれているからなんだと思うけど・・・、一葉くんと一緒にいるのは楽しいし、とても穏やかな気持ちになれる。

以前も感じたことだけど・・・、一葉くんと一緒にいるのは心地いい。





色々回って、気がつけば、時刻は18時近くになっていた。

だいぶ日は長くなったと思うけど、この時間になると、やはり夕方だという気配になった。

オレンジ色になりそうな、空が私たちを見下ろしている。

「・・・18時か。水谷さん、そろそろ帰った方がいいかな」

一葉くんが、腕時計を見ながら確認のように私に聞いた。

「うん」と、私は首を縦に振る。

「そうだね、そろそろ・・・。ごめんね、今日はお父さんが釣りの日で・・・」

一葉くんとは、あらかじめ夕飯前に解散することを約束していた。

今日は、私の父が釣りの日だ。

昔から、父が釣りに行く日の夕飯は、釣ってきた魚と決まっているから(釣れなくても、釣れる前提で決まってる)、家族全員、外食はしないというのが約束だ。

まあ、どうしてもの時は断っているのだけれど・・・、断ると、父はわかりやすく落ち込んでしまうので、基本的に家で食べることにしているのだった。

「いや。また日を改めて色々聞かせてもらえたら。お父さん、張り切って料理してるだろうし・・・、釣ってきた魚で夕飯なんて、想像するだけでおいしそうだな」

「うん、そうだね。時々めんどくさいんだけど・・・、父が釣った魚って、やっぱりなんかおいしいよ」

「そっか」

一葉くんが優しく微笑んだ。

その表情に、私の胸がドキッとなった。

「じゃあ・・・、帰ろうか」

「っ、うん・・・」

2人で駅に向かって歩き出す。

朝来た道と同じ道。

来た時は、緊張しながら歩いたけれど、今は・・・、どこか寂しい気持ちになっている。


(・・・そうだよね。もう帰るんだもの・・・)


一葉くんと一緒に過ごした、今日という日が終わってしまう。

楽しくて、穏やかな時間を過ごした日。

ーーー楽しかったな。

もっといろんなことをたくさん話して、もっと一緒にいたかった。

一葉くんには、ただの取材の延長なのかもしれないけれど、もっと一緒にーーー・・・。


(・・・って、私・・・・・・)


薄々わかっていた感情だった。

けれど今、はっきりと、私は自覚したんだと思う。

ーーーそうだ、私は・・・・・・、一葉くんのことが好きなんだ。









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