彩度beige
石河町の駅から2人で上りの電車に乗って、1駅先で乗り換えて、その後はまた地下鉄に。

私は2つ先の吉乃町が自宅の最寄り駅になるけれど、一葉くんはもう一度、私鉄に乗り換える必要があるらしい。

なんという駅が最寄りなのかを尋ねると、高級住宅街で知られる駅名を言われて驚いた。

「えっ、実家?」

「いや、一人で住んでる」


(・・・そうなんだ・・・)


一葉くんは、やっぱり謎が多いと思う。

小説家としての収入だけでは心もとない、という理由でバイトをしているんだと思っていたけど、金銭的に余裕がない感じは今のところ一切していない。

むしろ、かなり余裕がありそうな。

小説家以外の仕事って、やっぱり、ただのバイトじゃないのかな。

今日も何度か「ちょっとごめん」と言って仕事っぽい電話をしていたけれど、雇われているバイト先とのやり取りではなかったような・・・。


(どちらかというと、一葉くんが指示してる側にも感じたし・・・)


なんの仕事をしてるんだろう。

色々聞きたいことはあるけれど、どこまで踏み込んでいいのかわからない。

一葉くんのことを、もっともっと知りたいけれど、下手に踏み込んでしまって、嫌われることも怖かった。

「・・・そうだ。今日の取材の謝礼渡してないな」

私が下りる駅のアナウンスが車内に流れると、一葉くんは、カバンから和柄の封筒を取り出した。

そしてそれを、「はい」と私に差し出した。

「今日の謝礼です。ごめん、帰り際ぎりぎりで」

「う、ううん!でも、今回は遠慮させてほしいです。私の好きな場所に行ってもらって、食事もお茶も全部奢ってもらったし・・・、この前頂いた謝礼だけでも、取材何回分?っていう金額だったし」

取材の相場は、私は確かにわからない。

けれど、私にとっては前回の取材の報酬だけで、「今回の件」に関することは、全て十分だって思った。

「いや、これは仕事だし。こういうのはちゃんとしておきたい」

「・・・でも、今日は本当に、それに見合ったことができてる気がしないから・・・」

一緒に雑貨屋さんを見て回り、一緒に楽しくランチして、かわいいカフェでお茶をして・・・。

しかもーーー、さっき、好きだと自覚した相手。

仕事だから、という理由で今日の楽しい時間を過ごしたことは、事実だけれど・・・どこか寂しい感覚もした。

「そんなことないよ。色々教えてもらってオレはすごく助かってるし。水谷さんには沢山時間を使わせてるから、ちゃんと受け取ってもらいたい」

「・・・、でも・・・」
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