彩度beige
「とにかくさ、衣緒は俺に見合うようにしてくれる?服も靴もカバンもさ、俺が指定した店以外では今後一切買わないで。髪もメイクもそういうナチュラルな感じじゃなくて、もっと高めに見える感じにしろよ。他の奥さんたちよりも、『格が上』って見えるようにさ」

「えっ・・・」

「無理とか言うなよ。俺の稼いだ金でやらせてやるって言ってんだから」

「・・・・・・」

「あー・・・、そうだ。明日、神野さんたちが家に来ることになったから。見栄えのいい料理作れよな。美味いことはもちろん絶対条件だけど」

「・・・・・・、うん・・・」

価値観が、どんどんすれ違っていく。

「私」が、どこにもいなくなっていく。

それはとても悲しいことで、とても寂しいことだった。

けれど、この頃の私にとって、敦也は世界の中心で、その存在はとても大きいもので。

だから、「従わない」って選択肢は頭の中にはなかったし、なによりもまだ、私は敦也を好きだった。


ーーー彼の期待に応えるべきで、自分は彼に合わせるべきで。

だって、そうしないと敦也と一緒にいられないーーーーー・・・。


そんな思いで自分なりに努力を重ねたけれど、心は苦しく、すれ違いの感覚は強くなる一方だった。

そして、薄々感じていた他の女性の影も色濃くなって、不安が強くなった頃ーーー。

初めての結婚記念日を迎える直前、私は、敦也から離婚を言い渡されたのだった。











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