彩度beige
翌週のまた水曜日。

今日は、「一葉くんの好きな場所」に連れて行ってもらう約束の日だ。

待ち合わせ場所として彼に指定をされたのは、とある小さな駅の改札口。

一葉くんに事前に言われていた通り、私は今、歩きやすい靴と服装で、リュックを背負い、電車に乗って待ち合わせ場所に向かっていた。


(『長時間歩くの平気?』って聞かれた時から沢山歩くことはもちろん予想はしてたけど・・・、まさか、プチ登山を提案されるとは)


「連れて行ってほしい」とお願いをした、一葉くんが好きな場所。

それは、観光地としてわりと有名らしい山だった。

山とは言っても、本格的な登山装備が必要になるような山ではなくて、子連れでハイキングにでも来れそうな、登りやすい低めの山である。


(でも、一葉くんと『山』ってあんまりイメージが結びつかなかったから、言われた時は驚いたな・・・)


小説家、という肩書きも手伝って、一葉くんは「外」より「内」なイメージだった。

見た目だって色白で、ムキムキしているわけでもないし、それこそ、図書館にこもってずっと読書をしているような。

もしくはおしゃれなカフェだとか、アニメやゲームも好きそうなので、聖地巡礼的な提案をされるのかなと思ったけれど・・・。


『確かにアニメもゲームも好きだけど。水谷さんと一緒なら、山の方が楽しそうだから』


ーーーなんでも、創作で行き詰った時は、一葉くんはとにかく歩くそうだった。

近所を散歩するのはもちろんだけど、ちょっとした山登りをすることは、気分転換にも運動にもなるし、途中でいいアイデアがパッと浮かんできたりするらしい。


(単純に歩くことが好きみたいだけれど・・・、なにはともあれ、一葉くんの好きな場所に連れて行ってもらえることが嬉しいな)


それっぽい理由をこじつけて、お願いをしたことだから、もちろんデートなんかじゃないけれど。

それでも、彼の好きな場所に一緒に行けるということは、私にとって、とても嬉しいことだった。






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