彩度beige
「・・・ごめん、先に言わなくて」

「ううん。私も今まで聞かなかったし、それは全然いいんだけれど・・・、ただ、全く想像していなかったことだから、ひたすら驚いてるというか・・・」

だって、あの高級ホテルの「Vulpecula」。

一葉くんが、その創業者一族で社長兼支配人をしているなんて、どうしたって驚くし、動揺せずにはいられない。

「・・・でも、そうしたら、一葉くんて本当に忙しい人なんだよね。大丈夫なのかな・・・、せっかくの貴重なお休みに、こうして山に来たりとか、私の物語を書く約束をしたりとか・・・」

そんな仕事をしている彼が、忙しくないわけがない。

それなのに、ここ最近は私と毎週一緒に出掛け、「私が主人公」の物語を書いてくれるだなんて・・・、いいのかなって思いもあるし、ちゃんと睡眠をとれているのか、仕事の時間は問題ないのか・・・、急に不安になってきた。

「平気だよ。時間はうまく調整してる」

「・・・でも、寝る時間とか少ないんじゃ」

「・・・どうだろう。そもそもショートスリーパーだし、わりと効率よく仕事はできる方だと思う。それに、今でも自分のことは基本的に物書きだって思っているから。忙しくないってわけではないけど・・・、だからこそこういう時間とか、書くことに費やす時間が必要で。書くことは、気分転換にもなっているから」

「・・・」


(・・・そうなのかな・・・。それならいいかもしれないけれど・・・)


だけど・・・でも、書くことが、気分転換だっていうのなら。

「私の物語を書く以外にも・・・、仕事として、小説は書いているんでしょ?」

「・・・まあ。けど、水谷さんのことは、どんなに時間がなくても書きたいって思ってる」

「・・・・・・」

どうして、そんなふうに思ってくれているのだろうか。

私は再び、彼が「特別」だって言ってくれたことを思い出す。

その理由をーーー、聞いてみたい。今なら聞けるかもしれない。

今、この流れで聞かないと、もう聞くことはできないような予感もあった。

・・・うん、そうだ。

今、今こそ・・・!と、勇気を振り絞ろうとしていると、同じく、何かを言おうとしていた一葉くんが、私より先に言葉を告げた。

「水谷さんの小説は・・・、少しずつだけど、構成はできてきてるから」

「!」

もう、物語は進んでる。

言われて私は、興味がそちらに傾いた。
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