彩度beige
そしてそれから約2年ーーー。

30歳になった私は今、母の友人夫婦が営んでいる、パン屋「スピカ」でパートとして働いていた。

「衣緒ちゃん、午後のクリームサンドはまだかなあ」

トングを持って、商品棚のパンを取りやすいように並べていると、横から声をかけられた。

常連の近所のおじいさま、84歳になる中島さんだ。

「あ、もうすぐできると思います。ちょっと見てきますね」

「ほんと?やー、ここのクリームサンドが絶品なんだよねえ。金曜のおやつはこれ!って絶対決めてるの」

「ふふ。お待ちくださいね」

中島さんにイートインの席を勧めて、私はささっと厨房へ。

すると、ちょうどオーナーの尚道(なおみち)さんが、コッペパンにクリームをはさんでいるところだった。

「あ、クリームサンド?」

「はい。中島さんが待っていて」

「OKOK。出来たてだよ~。じゃあ、とりあえずこれ持ってって」

「はい」

クリームサンドをひとつトレーに載せて、すぐに中島さんの元へ。

このまま袋に入れていいかを尋ねると、中島さんは「んー」と少し考えて、「今日はここで食べていこうかな」と、一緒にホットカフェオレも注文する。

「出来たておいしそうだしね。おやつには早いけど、たまには食べていくのもいいよねえ」

「ふふっ、ですね。じゃあ、お皿でご用意しますね」

「うん、お願い」

「はい」と私は頷くと、レジ横に移動して、ホットカフェオレの準備に取り掛かる。

イートインのお客様へのドリンク提供は、基本的にレジの私の担当だ。

「はい、お待たせしましたー」

「おー、ありがとうありがとう。おいしそうだなあ」

「ゆっくり召し上がってくださいね」

「うん。ありがとー」

・・・と、中島さんとのんびり会話をしていると、キイ、と、お店のドアが開く音。

「いらっしゃいませー」と振り返ると、友人の糸屋真美(いとやまみ)の姿があった。

真美は、にっこり笑って右手を上げる。
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