彩度beige
一葉くんが社長兼支配人を務める「Vulpecula」は、新規顧客を獲得するため、また、既存の顧客に楽しんでもらうため、現在、期間限定の新しい宿泊プランを考えているらしい。

それは、和洋室である広めの一室を、今は無名のクリエイターたちに装飾してもらい、今までとは少し違った「Vulpecula」を味わってもらうというプランだそうだ。

「目新しさが一番の目的なんだけど。この前、水谷さんに連れて行ってもらった雑貨屋・・・『Lynx』か、あそこに行った時、まだ無名って言われるようなクリエイターでも、おもしろいものとか、すごくいいもの作る人って思ってる以上にいるんだなって気がついて。そういう人たちの作品と、うちに泊まってくれるお客さんたちとの縁も繋げることができたらいいなと思って」

「Vulpecula」は高級ホテルだ。

そのため、訪れるお客様たちも、裕福な方が多いそう。

普段から、ハイブランドや著名な芸術家の作品には触れる機会があるようだけど、「Lynx」のような小さな雑貨屋さんに置いてある作家の作品は、あまり目にする機会がないようだ。

「実力があるのに埋もれてるクリエイターを、できるだけ表に出したいんだ。うちのお客さんたちは、ものづくりしてる人を応援したいって人も多いから。需要と供給が合う気もしてて」

「うん」

「『Lynx』に置いてあるようなものを求めてる人もいると思うし・・・。ホテルに泊まっている間、部屋の中でゆっくり作品に触れてもらって、見て、使って、いいなと思うものがあったら購入もできるようにしたいなと」

「わ・・・、いいね!」

想像すると、それは素敵な光景だった。

上質な「Vulpecula」の空間に、個性豊かなクリエイターの作品たちが飾られる。

さりげなく置かれる小物たち、寝具やタオル、備え付けのカップなど・・・、デザインがいつもと違う「Vulpecula」は、全ての人に受け入れられるものではないかもしれないけれど、「好き!」「いいな」って感じる人は、必ずいるだろうと思った。

「とりあえず夏限定で、一日につき一部屋のみで考えてるけど。評判が良かったら、部屋数を増やしたり、期間を延長しようと思ってる」

「うん」

「エントランスの一角も、ギャラリースペースっぽくして部屋の雰囲気と連動させていこうかと」

新しい企画を話す一葉くんは、口調は変わらず静かだけれど、とても楽しそうだった。

ーーーなんだかんだいって、小説の仕事だけではなくて、ホテルの仕事も好きなんだな。

そんなふうに、心の中でちょっとほっこりしていると。
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