彩度beige
「水谷さん、うちのホテルは初めてですか?」

話しかけられて、私はドキッとしてしまう。

心の中を、読まれたような感じもしたから。

「あ・・・、いえ。泊まったことはないんですけれど、以前、レストランに一度だけ食事に来たことが」

「そうなんですね。何をお召し上がりになったんですか?」

「ええと・・・、フランス料理です。確か、上の方の階にある・・・」

「『ル・レーヴ・エピキュリアン』ですね。ご満足いただけましたか?」

「は、はい!料理もとてもおいしかったし、すごく綺麗な夜景が見えて・・・」

「ありがとうございます。あの眺望はいいですよねえ・・・、私もお気に入りなんですよ」

私の緊張をほぐすよう、瀧澤さんは親しみやすく、にこやかに話をしてくれた。

ーーーさすが、ホスピタリティのプロである。

緊張はまだ続いているけど、身構えていた分、瀧澤さんの対応に、私は少し、ほっとした。

そこから、2人でたわいもない会話をしていると、コンコン、とドアをノックする音が。

ドアが開いて、会議室の中に入ってきたのは、40歳くらいの眼鏡をかけた男性と・・・、黒いスーツに身を包み、前髪をキリッと上げて、銀髪を整えた一葉くんだった。

「すみません、遅くなって」

「!」


(た、大変・・・!一葉くんがめちゃくちゃかっこいい・・・!!)


ホテリエとしての彼を見るのは、私は今日が初めてだ。

黒いスーツもよく似合っているし、きれいに整えられた銀髪が、彼の端正な顔立ちを目立たせる。

いつもかっこいいけれど・・・、今日は、格段に落ち着いた印象で、普段とはまた違う雰囲気が、とてもかっこいいと思った。


(どうしよう・・・。大人っぽいし、シャキッとしていてかっこいい・・・)


もはや、かっこいい、という感想しか出てこない。

さっきまでの緊張と、それとは違うドキドキと。私の心臓は、今日はかなり忙しい。

・・・と、一葉くんが、隣にいる男性を私に紹介してくれた。

「うちの及河です。普段からオレのサポートをしてくれていて・・・、支配人代理という立場で色々と動いてくれています。なので、通常は違う業務が主なんだけど・・・、及河さん自身の希望があって、今回は、瀧澤さんと一緒に企画を担当してもらうことになりました」

及河一希(おいかわかずき)です。よろしくお願いいたします」

「水谷です。よろしくお願いいたします」
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