彩度beige
景色のいい宿泊者専用のラウンジを案内してもらった後で、別のフロア・・・下の階に行くために、エレベーターホールへ移動する。

「向こう側は全部客室なんだ。もうお客様も入ってるから案内はできないんだけど」

「うん、大丈夫だよ。ありがとう」

最上階のこの階は、見た感じ、スイートルームなどの豪華な部屋がありそうだった。

いつか泊まってみたいなあ、と、心の中で夢を描いた。

「・・・では、失礼いたしました」

遠くの方から声がして、目をやると、2人の女性従業員が、廊下の一番奥にある、客室から出てくる様子が見えた。

女性2人は、こちらに向かってカートをゆっくり押してくる。

どうやら、ルームサービスで客室を訪れていたようだった。

「・・・お疲れさまです」

一葉くんが声をかけると、2人の女性は少し離れた位置でピタリと止まった。

そして、はっとしたように1人が「お疲れさまです!!」と勢いよく頭を下げて、つられるように、もう1人の女性もぺこりと深く頭を下げた。

エレベーターはまだ来ない。

2人の女性従業員の、後ろでこそこそと話す声が聞こえてくる。

「・・・あんなイケメン、うちのホテルにいましたっけ?」

「ちょっ・・・、あれ、うちの社長で支配人だよ!!私も直接会うの2回目だけどもっ」

「えっ!?や、やだ、あれですか!!私、アバターでしか会ったことなかったから・・・」

「マジでイケメンじゃないですか!!」と、小声ながらも興奮した様子で話している。

アバターとは・・・?と、ちょっと気にかかりつつ、本当に、一葉くんはあまり表に出ない存在で、従業員にもほぼ顔を知られていないようだと改めて認識した私。

従業員の声が聞こえているのかいないのか・・・、一葉くんは、涼しい顔で階数表示を眺めてる。

エレベーターが到着し、私と一葉くんが乗り込んだ後、女性従業員たちも一緒に乗るかと思ったけれど、「カートがあるのでお先にどうぞ!」と言われたために、一葉くんは会釈して、ボタンを押して扉を閉めた。

2人だけのエレベーター。

何か話そうか・・・と考えて、私は、気になったことを聞いてみる。

「一葉くん、アバターで従業員さんと会ったりするの?さっき、ちょっと聞こえてきたから・・・」

私の疑問に、一葉くんは少しだけドキッとなった顔をする。

言いにくそうな顔をしたけれど、迷いながらも答えてくれた。

「・・・うん。オレは基本的に表に出ないし・・・、今みたいにスタッフに偶然会った時にも、気軽に話しかけるってあんまり上手くできなくて。けど、働いてくれてる人の意見は色々聞きたくて、アバターで話せる専用のアプリを知り合いに作ってもらったんだ。それで、何かあればメッセージを送ってもらったり、話したりさせてもらってて」
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