彩度beige
「ち、違くて。その・・・、今日はすごく暑いから・・・・・・、だと思う・・・」

そんな言い訳しか出てこなかった。

だってやっぱり・・・、本当のことは口にできない。


(・・・でも、小説家って、人間観察が得意そうに思うから、人の心情とか簡単に想像できるのかなって思っていたけれど・・・)


それは私の勝手な思い込み?

それとも、一葉くんがそういうタイプじゃないってだけかな?

ま、まあ・・・、いずれにしても、一葉くんの色気にあてられて、顔が赤くなったなんて気づかないでいてほしいから、もう、これはこれでよしとして、話を逸らすことにする。

「と、とりあえず・・・、会場行こうか!お客さん、もう、結構入っているみたいだし」

私はぐるっと話題を変えて、一葉くんを促した。

駅周辺は、同じくイベントに行くのであろう、大勢の人たちが、会場に向かって歩いていた。


(・・・やっぱり、おしゃれで個性的な感じの人が多いよね。見ているだけでも楽しいな・・・)


私はというと、先日、「Lynx」で見つけた空色のふわふわとしたスカートと、柔らかな印象の白いブラウスを合わせてきた。

おしゃれに着こなすのは得意じゃないけど、このスカートはとてもかわいいし、イベントの雰囲気に合うんじゃないかと思って選んだ。

ーーー歩くたび、スカートの布がふわふわ揺れる。

一葉くんが「きれいな色」だと褒めてくれ、私はとても嬉しくなった。

「『Lynx』で買ったんだよ。作家さんの手作りなんだって」

単純に、履いているスカートを褒められたことが嬉しいけれど、これをつくった作家さんを褒められている気分になるのも同時に嬉しい。

「推し活」と、似ているような気分かな。

「このスカートを作った作家さんも、今日のイベントに出展しているみたい」

「へえ・・・、喜ぶだろうな。実際に水谷さんが・・・、お客さんが着てるの見たら」

「そ、そうかな。・・・アピールっぽくて恥ずかしい気もしたんだけれど・・・、かわいいしせっかく買ったし、やっぱり着たくなっちゃって」

「・・・うん。いいと思う。すごく似合ってるし・・・、かわいい」

「!」

一葉くんは、スカートのことを褒めているんであって、私を褒めてるわけじゃない。

けれど、視線を合わせて「かわいい」なんて言われると、やっぱりドキッとしてしまう。


(で、でも、一葉くん、わりと『かわいい』って言葉は結構さらっと言うからな・・・)


一葉くんの優しさだとか真っ直ぐさとか、小説家っていう立場とか。

色々わかっているつもりだけれど、どうしても、時々期待してしまう。

だけど・・・、その期待は毎回半分正解で、半分は不正解なんだよね。

彼の中の、「水谷衣緒」っていう私。

私はいつか、彼の想像上の自分を超えることができるのだろうか。










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