彩度beige
真美的には励ましたつもりのようだけど、私の心は、「庶民派」という言葉にさらに大きなダメージが。

私は、ハイスぺな敦也と結婚しても、自分がセレブにはなれず、「普通」を脱せなかったことがトラウマだ。

「・・・ごめん、悪いけど。多分、話合わないし」

「なんで!話してみないとわからないじゃん」

「いや・・・、もうわかってる」

「わかってないって!今日の主催の人、めっちゃほんとにいい人だから!!すごい稼いでセレブだけども、めっちゃすっごいいい人だから!!」

真美は鼻息荒く熱弁を振るう。

私は、冷めた気持ちで遠い目をした。

「・・・敦也も最初はそうだった・・・」

「はあ!?もー!!それってたったの『サンプル1』でしょ?敦也さん以外と結婚したことないくせに!!」

「っ、ないよ!!でも、もうセレブとかハイスぺとか経営者とか、そういう上層階級っぽい男性イヤなの!!」

「はあ~っ!?なにそれ!!なにを贅沢言っちゃってんのよ〜!!!」

・・・と、真美とぎゃーぎゃー言い合っていると、隣から、「ふぉっふぉっふぉっ」と、楽しそうな中島さんの笑い声。

私と真美は、言い合いを止めて中島さんに目を向けた。

「衣緒ちゃん、せっかくだから行って来たら?最近元気になってきたんだし」

中島さんが、にこにこと笑いかけてきた。

常連の中島さんは、1年間の引きこもりを経て、私がここでパートを始めてからの、その後の変化を知っている。

「おっ!ナイスアシストおじいさま!!どうもありがとうございます!!」

そう言って、真美は中島さんに右の親指をグッと立てたポーズをとった。

中島さんも、にこにこしながら同じポーズを真美に返した。

「こういうお話がくるのも若いうちだよ。僕くらいになると、そういう話もないからねえ」

「・・・ま、まあ・・・、そうかもしれませんけれど・・・」

84歳の中島さんに言われると、頷くことしかできないけれど。

とはいえ私はバツイチで、まだ敦也のことも少しとはいえ引きずっていて、「合コンだ!」って、ウキウキできる心境でもない。

けれど真美は、ここぞとばかりに畳み掛けてくる。

「ほらっ、そうだよ衣緒!ここでまた彼氏見つけてさ、もう一度、共に幸せを掴みにいこうじゃないの!」

「うんうん、そうだぞ衣緒ちゃん。せっかくのお話なんだから、ありがたく受けたらいいんじゃないかなあ」

「・・・・・・でも・・・・・・」

と、私が曇った顔をしていると、中島さんが、「けほっ、けほっ」と、息苦しそうに咳き込んだ。

私は慌てて、中島さんの背中に手を添える。

「中島さん、大丈夫ですか?」
< 8 / 101 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop