彩度beige
「どっかのITセレブと結婚したって噂で聞いてたんだけど。別れてんのか」

「・・・っ、そ、そうだけどっ!そこで笑わなくてもいいじゃない」

私はちょっとむっとする。

緋山くんは「悪い悪い」と言いながら、右手で「ごめん」のポーズをとった。

「バツイチって、俺の周り全然いなくてさ。だから親近感っていうか・・・、仲間かーって思ってさ。・・・いや、なんかほっとした。あ、別れててほっとしたっていうんじゃなくて。なんか、こう・・・、話してる感じとか、反応っていうか。水谷変わってないなって」

屈託ない笑顔を向けられた。

緋山くんも・・・、見た目はもちろん大人になっているけれど、こういうところ、変わってないなと私も思う。

「・・・・・・、お話し中のところすみません」

ゴホン、と咳払いをして、一葉くんが呟いた。

淡々としているけれど、少し怒っているような表情で。

「あまり時間がないもので。仕事の話をさせていただきたいんですが・・・、よろしいですか」


(・・・!、そうだ・・・)


私は今、ここに仕事に来ている。

一葉くんはこれからまだホテルの仕事も残っているし・・・、緋山くんと、のんびり思い出話をしている暇はなかった。

「すみません・・・」

「そっか、水谷と仕事で来てるんですもんね。懐かしくって、つい長々話しちゃったな」

チラッと、こちらに視線を向けた一葉くんと目が合った。

やっぱり怒っている様子に見えて、私は少しシュンとなる。

「それで・・・、仕事の話って、俺にどのような・・・?」

「・・・ああ・・・、はい。単刀直入に言うと、ここにある器を全て買い取らせていただきたいと思ってます。うちのホテルで使わせていただけたらと」

「・・・・・・、えっ!?」

大きく瞬きをした後に、緋山くんは驚きながらのけぞった。

信じられない、という文字が、顔に大きく書いてある。

「す、全てって・・・、全部、ですか?」

「はい。できれば。既に予約済みのものとかありますか」

「いや・・・、今のところはないですけど・・・」

「では、全て買い取らせてください。今日全てを持ち帰るのはさすがにこちらも不可能なので、このイベントが終わった後に引き取らせていただけたらと。代金は、今日全額お支払いしますので」

「え!?や、ありがたいけど・・・・・・」

突然の提案に、緋山くんは戸惑っていた。

「Vulpecula」で器を使いたい、全て買い取りたいって言われるなんて、びっくりするのも当然のことかもしれない。

「・・・緋山くんの器、今企画してる宿泊プランのイメージにぴったりなんだよ。これなんだけど・・・」

戸惑っている緋山くんに、まずは説明が必要だろうと思い、私は企画のイメージ画や写真を映したタブレットを見せた。

まだあまり知られていない作家さんの作品を使いたい、という企画のコンセプトも一緒に伝える。
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