夏の序曲

第32話 私立大学試験日

私立大学の試験当日。
まだ薄暗い早朝、悠斗は自宅を出て駅へと向かった。冷たい風が頬を刺すが、その緊張感が試験への集中をさらに高めてくれる気がした。
電車に乗り込むと、座席に深く腰を下ろし、カバンの中から試験票を確認する。手に取った紙の感触が、自分がここまで努力してきたことを静かに思い出させた。

2時間半ほどの道のりを経て、悠斗は東京の試験会場へとたどり着いた。
「大きいな…。」
駅から徒歩数分で見えてきた大学のキャンパス。その広さと近代的な建物のデザインに、思わず足を止めて見上げてしまう。
(もし合格したら、この大学に通うことになるかもしれない。)
ふと未来の自分を想像しながら、気を引き締めるように軽く頬を叩いた。

会場の受付を済ませると、案内された試験教室には、同じように緊張した面持ちの受験生たちがすでに集まっていた。
席に着いた悠斗は、周囲の雑音に耳を傾けることなく、問題用紙が配布される瞬間を待った。
(いよいよスタートだ。)
心の中で自分に言い聞かせ、試験に挑む準備を整える。

試験が始まると、最初の問題に向き合いながら集中力を高めていく。慣れない試験会場の空気に緊張は感じたものの、いつもの模試を思い出しながらペースを保った。
時間との戦いに追われる中でも、悠斗の筆は止まらなかった。

最後の問題を解き終えた瞬間、試験終了を告げるチャイムが鳴る。悠斗は深く息を吸い込み、緊張で硬くなった肩をゆっくりと落とした。
(何とかやり切った…。)
席を立ちながら、改めて周囲の様子に目を向けると、試験を終えたばかりの生徒たちがそれぞれの表情を浮かべて会場を後にしていく。

そして、試験会場を後にした悠斗は、どこか安堵しながらも、胸の奥に不安が燻るのを感じていた。
(手ごたえは悪くなかった…でも、合否が出るまでは安心できないよな。)
肩に背負っていたカバンを少し持ち直しながら、悠斗は小さく息を吐いた。

帰宅後、参考書を開くと、再び集中のスイッチが入った。
(まだ終わりじゃない。月末には本命の国立大学の試験がある。それに全力を尽くさなきゃ。)
悠斗は数学の難問に取り組みながら、少しずつ気持ちを切り替えていった。

時折、紗彩からのLINEが画面に浮かぶたび、ほんの少しだけ心が軽くなる。
「試験お疲れさま!次も全力でね!」
簡潔なメッセージに励まされながら、悠斗は再び問題集に向かった。

残りの日数は限られている。
試験科目の英語、数学、物理、化学…どれも難易度の高い問題が待っているだろう。
悠斗はカレンダーを見つめ、ラストスパートの計画を頭の中で練り直した。
(大丈夫、やれるだけやる。それが俺にできる唯一のことだ。)
悠斗の毎日は再び勉強漬けの日々に戻っていく。試験の重圧と不安を抱えながらも、彼は目標を見据えて前に進み続けた。
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