夏の序曲

第33話 本命の試験日

まだ薄暗い朝、悠斗は目覚まし時計のアラームとともに起き上がった。眠気を振り払うように顔を洗い、準備を整える。母親が用意してくれた軽い朝食を取ると、駅へ向かった。
（これで全てが決まるんだ…。）
悠斗は背筋を伸ばし、東京行きの電車に乗り込む。

試験会場に着くと、いつものようにざわめきが響いていた。受験生たちの表情には緊張が見て取れるが、悠斗は周囲に流されることなく、試験開始を待った。
午前中の数学では、最初の問題に向き合うと、比較的解きやすい感触を得た。
（いける…ペースを崩さなければ。）
途中、計算が複雑な問題に手間取ったものの、冷静に対応。最後の問題にも取り組み、解答を埋めた瞬間、試験終了の合図が鳴った。
（なんとか全部解き切った…！）

午後の英語では、文法や長文読解で普段の練習の成果を発揮。試験終了後、悠斗は自分の回答を振り返りながら、小さく息を吐いた。
（今日は順調だったな。この調子で明日も頑張ろう。）

翌朝も同じ時間に家を出たが、悠斗の表情には少し疲れが見える。それでも、試験会場へ向かう足取りには決意が滲んでいた。
午前中の物理では、序盤は順調だったものの、途中で手が止まる。
（えっと…この問題、どの公式で解くべきだっけ？）
予想外の難問に遭遇し、焦りが募る。しかし、何とか冷静さを取り戻し、最後の問題まで回答を埋めることができた。

午後の化学でも、難問に苦戦しながら全力を尽くす。
（昨日と比べると、今日は厳しいな…。）
試験終了後の悠斗の顔には、不安と疲労が交じっていた。
（最後までやれることはやった。でも…結果はどうなるんだろう。）

試験翌日、私立大学の合格発表を思い出した悠斗は、パソコンの電源を入れ、受験ポータルサイトにログインした。
画面に表示された「合格」の文字を見た瞬間、肩の力が一気に抜ける。
（良かった…。少なくともこれで進む道は確保できた。）
嬉しさと安心感が入り混じる中、悠斗は紗彩に短いメッセージを送った。
「私立、受かったよ。」
するとすぐに返信が来た。
「すごいね！おめでとう！次は国立だね。」

その言葉を読んで、悠斗は小さく笑った。
（あとは発表を待つだけか…。）

その日は、久しぶりに勉強のプレッシャーから解放され、リビングで家族と夕食を囲んだ。両親も私立合格を聞いて安堵の表情を浮かべている。
「本当によく頑張ったわね。」母親の言葉に、悠斗は照れ隠しに軽くうなずく。
（でも、国立の結果がどうなるかだ…。それまでは、まだ気が抜けないな。）

夕食後、悠斗は自分の部屋の窓から夜空を見上げた。澄んだ冬の空に星が瞬いている。
（国立も合格できたら…その時は紗彩にもちゃんと話がしたい。）
そう心に決めながら、悠斗は静かに部屋の明かりを消した。