夏の序曲
第6話 授業風景
翌日、朝から快晴だった。朝練を終えて、教室に入った悠斗は、席に腰を下ろすと、机に教科書を広げ、カバンの中から譜面を取り出した。授業が始まるまでのわずかな時間を使い、ディズニーメドレーの掛け合い部分を再確認する。
(修飾音をもっと滑らかに…か。)
譜面に記されたデキシーランドジャズ風の軽快なフレーズには、細かな修飾音がちりばめられている。指を素早く動かすだけでなく、確実にバルブを押し切り、息を途切れなく送り込む技術が必要だ。
(ただ滑らかに吹くだけじゃ足りない。音に表情をつけて、もっとメロディを際立たせたい。)
悠斗は譜面を見つめながら、頭の中でその旋律を反芻していると、突然チャイムが鳴り響いた。
「ああ、時間か…。」
譜面をそっとカバンに戻し、悠斗はため息をつきながら教科書を開いた。
授業が始まり、教師の声とチョークのカリカリという音だけが教室に響く。数学の時間だが、悠斗にとってはすでに志望校の過去問で何度も目にした内容ばかりだった。ノートを取りながら、ふと心の中でため息をつく。
(こんなの、復習にしかならない…。)
教科書を一瞥しつつ、悠斗は机の中から小さなノートを取り出した。それは、自分でまとめた志望校の過去問の解答集だった。簡潔なメモや重要な式が並ぶそのノートは、悠斗にとって効率よく勉強を進めるための相棒だった。
(これを今やれたらなあ…。)
黒板を写すふりをしながらノートをめくる。しかしその瞬間、教師の声が教室に響いた。
「この問題だが、別の解き方もできる。笹原、この問題、何を求めることと同義かな?」
不意打ちに悠斗の思考が固まる。視線を急いで黒板に移すが、書かれているのは、2本の曲線が書かれたグラフだけ。問題文を思い出そうとしたが、頭の中は真っ白だ。隣の席を見ると、滝沢丈士のノートに目が止まった。そこには問題の解説がしっかり書き込まれている。
(ああ、接点を求める問題か…。なら、これだろう。)
悠斗は頭を整理し、慎重に口を開いた。
「2つとも多項式で表せる関数なので、重解を求めることと同義です。」
数秒の静寂の後、教師は満足げに頷いた。
「その通り。接点を求めるというのは、2つの関数の差がゼロになるところを探すこと。このタイプの問題は重解として処理できる場合が多いから、覚えておくように。」
黒板に補足の式が書き加えられ、教室内にシャープペンの音が響く。悠斗は胸をなでおろしながらノートに視線を戻した。
(危なかった…。丈士のノートがなかったら、完全に詰んでた。)
ちらりと隣を見ると、丈士がいたずらっぽくウインクしてくる。悠斗は小さく笑いながら視線を前に戻した。
しかし、彼の頭はすでに別のことに向かっていた。
(そういえば、今日はディズニーメドレーの全体練習だったな。)
黒板に映る数式が目に入ってはいたが、悠斗の意識は放課後の部活に向かっていた。
(修飾音をもっと滑らかに…か。)
譜面に記されたデキシーランドジャズ風の軽快なフレーズには、細かな修飾音がちりばめられている。指を素早く動かすだけでなく、確実にバルブを押し切り、息を途切れなく送り込む技術が必要だ。
(ただ滑らかに吹くだけじゃ足りない。音に表情をつけて、もっとメロディを際立たせたい。)
悠斗は譜面を見つめながら、頭の中でその旋律を反芻していると、突然チャイムが鳴り響いた。
「ああ、時間か…。」
譜面をそっとカバンに戻し、悠斗はため息をつきながら教科書を開いた。
授業が始まり、教師の声とチョークのカリカリという音だけが教室に響く。数学の時間だが、悠斗にとってはすでに志望校の過去問で何度も目にした内容ばかりだった。ノートを取りながら、ふと心の中でため息をつく。
(こんなの、復習にしかならない…。)
教科書を一瞥しつつ、悠斗は机の中から小さなノートを取り出した。それは、自分でまとめた志望校の過去問の解答集だった。簡潔なメモや重要な式が並ぶそのノートは、悠斗にとって効率よく勉強を進めるための相棒だった。
(これを今やれたらなあ…。)
黒板を写すふりをしながらノートをめくる。しかしその瞬間、教師の声が教室に響いた。
「この問題だが、別の解き方もできる。笹原、この問題、何を求めることと同義かな?」
不意打ちに悠斗の思考が固まる。視線を急いで黒板に移すが、書かれているのは、2本の曲線が書かれたグラフだけ。問題文を思い出そうとしたが、頭の中は真っ白だ。隣の席を見ると、滝沢丈士のノートに目が止まった。そこには問題の解説がしっかり書き込まれている。
(ああ、接点を求める問題か…。なら、これだろう。)
悠斗は頭を整理し、慎重に口を開いた。
「2つとも多項式で表せる関数なので、重解を求めることと同義です。」
数秒の静寂の後、教師は満足げに頷いた。
「その通り。接点を求めるというのは、2つの関数の差がゼロになるところを探すこと。このタイプの問題は重解として処理できる場合が多いから、覚えておくように。」
黒板に補足の式が書き加えられ、教室内にシャープペンの音が響く。悠斗は胸をなでおろしながらノートに視線を戻した。
(危なかった…。丈士のノートがなかったら、完全に詰んでた。)
ちらりと隣を見ると、丈士がいたずらっぽくウインクしてくる。悠斗は小さく笑いながら視線を前に戻した。
しかし、彼の頭はすでに別のことに向かっていた。
(そういえば、今日はディズニーメドレーの全体練習だったな。)
黒板に映る数式が目に入ってはいたが、悠斗の意識は放課後の部活に向かっていた。