夏の序曲
第7話 ディズニーメドレー
放課後の全体練習が始まった。パート練習を終えた部員たちが集まり、部長の木村遥が指揮台に立つ。
「次はディズニーメドレーを合わせるわよ。」
その一言に、部室内がざわついた。ディズニーメドレーはソロや二重奏のパートが多く、ソロ演奏者が前に出る構成になっている。演奏だけでなくステージでの動きも重要な曲だ。
「せっかくだから、本番を想定してホールで練習しましょう。」
木村の提案に、部員たちは顔を見合わせながらも頷き、譜面台や楽器を手に校内の小ホールへと移動する。部室のある校舎の1階にある小ホールは、こぢんまりとしているが音がクリアに響く設計になっている。
部室より広く本番に近い練習ができる空間だ。ホールに立つと、部員たちは自分の立ち位置を確認しながら楽器を準備する。
「ソロや二重奏のパートは、本番と同じように前に出て演奏してね。」
木村の指示が飛ぶと、部員たちはそれぞれ譜面を見直しながら動きを確認する。やがて演奏が始まり、ディズニーメドレー特有の華やかで躍動感あふれる音楽がホールに響き渡る。
軽快なフルート、深みのあるクラリネット、木管セクションが魅力的なソロを次々と披露し、観客を引き込むような雰囲気を生み出す。ソロ担当の部員たちが前に出るタイミングもスムーズで、演奏に華やかさが加わっていく。
「次だな。」
悠斗は譜面を見つめながら錬と視線を交わし、静かに頷いた。
木村の指揮棒が振り直され、テンポが変化する。同時に、悠斗と錬が前に進み出た。悠斗のトランペットが第一声を放ち、軽やかで明るい音色がホールいっぱいに広がる。それに応えるように、錬のトロンボーンが深みのある音を重ねる。悠斗が旋律を奏で、錬がその音を包み込むように響かせる。
演奏が終わると、二人は息を整えながら元の位置に戻った。ユーフォニュームやサックスのソロパートがメロディを引き継ぎ、ホール全体に軽快でリズミカルな音楽が響き続ける。悠斗は譜面を追いながらも、さっきの掛け合いを反芻していた。
(まあ、今日は悪くなかったな…。)
やがてクライマックスを迎えた演奏がフィナーレを迎える。木村の指揮棒が最後の一振りを終え、音楽が止むと、ホールには余韻を味わうような静寂が訪れた。
「お疲れさま!」
木村が指揮棒を置き、部員たちに微笑む。
「全体的にいい感じだったけど、もう少し工夫できる部分があるわね。」
木村は譜面を手に取り、一つ一つのソロや二重奏にコメントを加えていく。
「サックスのソロ、よく吹けてたけど、もっと音を伸ばして華やかさを出すといいわ。」
「クラリネットの二重奏も、テンポがずれないように意識してね。」
部員たちはそれぞれ頷きながら、自分の譜面にメモを取る。
「それから。」
木村が悠斗と錬に目を向けた。
「掛け合いはいい感じだったわ。でも、もっと観客を楽しませる工夫が欲しいわね。」
「観客を楽しませる工夫?」
悠斗が首を傾げると、木村は微笑んで頷いた。
「ただ立って演奏するだけじゃなくて、動きを入れてみるのはどうかしら。」
その提案に部員たちは一瞬ざわついた。木村が音の正確さを重視することを知っている部員たちにとって、見た目の演出に言及するのは少し意外だった。
「動き…ですか?」
悠斗が戸惑い気味に言うと、錬がニヤリと笑ってトロンボーンを手に取る。
錬はリズムに合わせて軽快なステップを踏みながら、トロンボーンのスライドを絶妙に動かしてみせた。その動きは流れるようで、まるでダンサーのように堂々としている。
「おおー!」
周囲から歓声が上がり、「錬さん、さすがです!」と拍手が飛ぶ。
一方、悠斗はトランペットを構えたまま固まっていた。
「俺、こんなの無理だって…。」
額の汗を拭いながら、何とか動きを考えようとするが、まったく思いつかない。
部室に戻った悠斗は、譜面を見つめながら深いため息をついていた。
「おう、どうした?」
錬がトロンボーンを持ちながら気軽に声をかける。
「動きを入れろって言われたけど、イメージが湧かないんだ。どうすればいい?」
悠斗は半ば泣きそうな顔で訴えた。
「そりゃ簡単だろ。リズムに合わせて、まずは体を揺らしてみろ。」
錬はステージに立つパフォーマーのように軽快な動きを再現してみせた。その自信たっぷりな様子に、悠斗はますます肩を落とす。
「いや、俺には絶対無理!」
悠斗は声を上げながら頭を抱えた。
「じゃあ、もっとシンプルにやろう。」
錬は少し歩み寄り、肩を軽く左右に揺らす程度の動きを見本にして見せた。
「ほら、こうやってリズムを感じて、足を軽く踏むだけでもいいんだ。」
悠斗はおそるおそるトランペットを構え、ぎこちなく足を動かす。
「ほら、できてるじゃん。」
「全然かっこよくないけどな!」
悠斗は恥ずかしさを隠すように声を張り上げたが、錬は大笑いするだけだった。
何度か練習するうちに、悠斗の動きも少しずつ形になっていく。それでも錬の堂々としたパフォーマンスには到底及ばない。
「どう見てもお前の方が目立ってるよな…。」
肩を落とす悠斗に、錬は豪快に笑いながら肩を叩いた。
「それでいいんだよ!掛け合いってのは、どっちが目立つかじゃなくて、お互いの個性を引き出すことが大事なんだ。」
悠斗はその言葉に苦笑いを浮かべたが、少しだけ肩の力が抜けた。
「…まあ、何とか形にはなったかな。」
二人の動きと音が徐々に噛み合い、ディズニーメドレーの掛け合いは本番に向けてまた一歩完成へと近づいていった。
「次はディズニーメドレーを合わせるわよ。」
その一言に、部室内がざわついた。ディズニーメドレーはソロや二重奏のパートが多く、ソロ演奏者が前に出る構成になっている。演奏だけでなくステージでの動きも重要な曲だ。
「せっかくだから、本番を想定してホールで練習しましょう。」
木村の提案に、部員たちは顔を見合わせながらも頷き、譜面台や楽器を手に校内の小ホールへと移動する。部室のある校舎の1階にある小ホールは、こぢんまりとしているが音がクリアに響く設計になっている。
部室より広く本番に近い練習ができる空間だ。ホールに立つと、部員たちは自分の立ち位置を確認しながら楽器を準備する。
「ソロや二重奏のパートは、本番と同じように前に出て演奏してね。」
木村の指示が飛ぶと、部員たちはそれぞれ譜面を見直しながら動きを確認する。やがて演奏が始まり、ディズニーメドレー特有の華やかで躍動感あふれる音楽がホールに響き渡る。
軽快なフルート、深みのあるクラリネット、木管セクションが魅力的なソロを次々と披露し、観客を引き込むような雰囲気を生み出す。ソロ担当の部員たちが前に出るタイミングもスムーズで、演奏に華やかさが加わっていく。
「次だな。」
悠斗は譜面を見つめながら錬と視線を交わし、静かに頷いた。
木村の指揮棒が振り直され、テンポが変化する。同時に、悠斗と錬が前に進み出た。悠斗のトランペットが第一声を放ち、軽やかで明るい音色がホールいっぱいに広がる。それに応えるように、錬のトロンボーンが深みのある音を重ねる。悠斗が旋律を奏で、錬がその音を包み込むように響かせる。
演奏が終わると、二人は息を整えながら元の位置に戻った。ユーフォニュームやサックスのソロパートがメロディを引き継ぎ、ホール全体に軽快でリズミカルな音楽が響き続ける。悠斗は譜面を追いながらも、さっきの掛け合いを反芻していた。
(まあ、今日は悪くなかったな…。)
やがてクライマックスを迎えた演奏がフィナーレを迎える。木村の指揮棒が最後の一振りを終え、音楽が止むと、ホールには余韻を味わうような静寂が訪れた。
「お疲れさま!」
木村が指揮棒を置き、部員たちに微笑む。
「全体的にいい感じだったけど、もう少し工夫できる部分があるわね。」
木村は譜面を手に取り、一つ一つのソロや二重奏にコメントを加えていく。
「サックスのソロ、よく吹けてたけど、もっと音を伸ばして華やかさを出すといいわ。」
「クラリネットの二重奏も、テンポがずれないように意識してね。」
部員たちはそれぞれ頷きながら、自分の譜面にメモを取る。
「それから。」
木村が悠斗と錬に目を向けた。
「掛け合いはいい感じだったわ。でも、もっと観客を楽しませる工夫が欲しいわね。」
「観客を楽しませる工夫?」
悠斗が首を傾げると、木村は微笑んで頷いた。
「ただ立って演奏するだけじゃなくて、動きを入れてみるのはどうかしら。」
その提案に部員たちは一瞬ざわついた。木村が音の正確さを重視することを知っている部員たちにとって、見た目の演出に言及するのは少し意外だった。
「動き…ですか?」
悠斗が戸惑い気味に言うと、錬がニヤリと笑ってトロンボーンを手に取る。
錬はリズムに合わせて軽快なステップを踏みながら、トロンボーンのスライドを絶妙に動かしてみせた。その動きは流れるようで、まるでダンサーのように堂々としている。
「おおー!」
周囲から歓声が上がり、「錬さん、さすがです!」と拍手が飛ぶ。
一方、悠斗はトランペットを構えたまま固まっていた。
「俺、こんなの無理だって…。」
額の汗を拭いながら、何とか動きを考えようとするが、まったく思いつかない。
部室に戻った悠斗は、譜面を見つめながら深いため息をついていた。
「おう、どうした?」
錬がトロンボーンを持ちながら気軽に声をかける。
「動きを入れろって言われたけど、イメージが湧かないんだ。どうすればいい?」
悠斗は半ば泣きそうな顔で訴えた。
「そりゃ簡単だろ。リズムに合わせて、まずは体を揺らしてみろ。」
錬はステージに立つパフォーマーのように軽快な動きを再現してみせた。その自信たっぷりな様子に、悠斗はますます肩を落とす。
「いや、俺には絶対無理!」
悠斗は声を上げながら頭を抱えた。
「じゃあ、もっとシンプルにやろう。」
錬は少し歩み寄り、肩を軽く左右に揺らす程度の動きを見本にして見せた。
「ほら、こうやってリズムを感じて、足を軽く踏むだけでもいいんだ。」
悠斗はおそるおそるトランペットを構え、ぎこちなく足を動かす。
「ほら、できてるじゃん。」
「全然かっこよくないけどな!」
悠斗は恥ずかしさを隠すように声を張り上げたが、錬は大笑いするだけだった。
何度か練習するうちに、悠斗の動きも少しずつ形になっていく。それでも錬の堂々としたパフォーマンスには到底及ばない。
「どう見てもお前の方が目立ってるよな…。」
肩を落とす悠斗に、錬は豪快に笑いながら肩を叩いた。
「それでいいんだよ!掛け合いってのは、どっちが目立つかじゃなくて、お互いの個性を引き出すことが大事なんだ。」
悠斗はその言葉に苦笑いを浮かべたが、少しだけ肩の力が抜けた。
「…まあ、何とか形にはなったかな。」
二人の動きと音が徐々に噛み合い、ディズニーメドレーの掛け合いは本番に向けてまた一歩完成へと近づいていった。