敏腕CEOは初心な書道家を溺愛して離さない
 そうしているうちに前菜から料理が出てきた。
 香澄は話すことが上手ではないし、伯父は話すことが大好きだ。
 黙っていてもなんとなく場が進んでいくことに香澄は安心していた。

 前菜の白身魚のカルパッチョは食用の花が散らされ、目にも鮮やかだ。
 フルコースで伯父には料理を楽しめばいいと聞いていたけれど、それも道理かもしれない。

(旬のお魚……すごく美味しい)
 それにお皿がとても華やかで可愛いので本当はお料理の写真なども撮りたいが、さすがにそういった場ではないので我慢する。

 けれど、ちょっと残念な気がした。
 そんな様子を見られていたことに香澄は気づいていなかった。
 食事が終わり、ほとんど香澄が口を開かなかった中、神代が香澄に向かって話しかける。

「菜々美さんはとても緊張しているようだし、庭にでも出ますか。少し話しましょう」
 菜々美じゃない。

 けど、ずっと俯いているのも失礼だろうと香澄はやっと顔を上げる。
 すると、香澄を見ていた優しくて綺麗な色の瞳にぶつかった。

(はしばみ)色……」
「なんですって?」

 香澄を見ていたのは黄味がかった茶色の瞳だ。髪も柔らかそうな焦げ茶色で、神代は端正な顔立ちの持ち主なばかりでなく、その瞳や髪までも見蕩れてしまうような人だったのだ。

 首を傾げて香澄を覗き込むようすも印象は柔らかく怖くない。
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