敏腕CEOは初心な書道家を溺愛して離さない
11.心の中に在って失われないもの
 香澄は悩んでいた。
 東部書道展に出品する作品のことだ。師匠である清柊(せいしゅう)は特に何も言ってこないが、どうなっているかはきっと気にしていることだろう。

 教室のデスクの上には付箋のたくさんついた本が置いてある。
 命を懸けて自分のしたいことを成した主人公と、それに付随するまるで夏の花火のようにとても美しく過ぎ去ってしまう日々を香澄はその本から感じた。

 どちらも綺麗で美しく永遠に留めていることはできないものだ。
(留めることはできないからこそ美しく感じるもの)

 それはまるで神代と過ごす時間とも似ていた。いつもその時間は素晴らしいけれど、留めておくことはできない。
 いつも、会うたびに新鮮で、新しい世界を香澄に見せてくれる。

 最初から神代はそうだった。
 噴水のパフォーマンス。
 見事な食事や綺麗な夜景。それだけではなく。香澄のことを大事にして最優先に考え守ってくれる強さや優しさ。

 ──神代さん……。
 神代が与えてくれるものはいつも香澄にかけがえのないものばかりだ。
『輝きは心の中に在り形を変えても失われることはない』

 この文章をアレンジし書にすることにした。きっと今香澄の心の中にあるものはこれだと思うからだ。
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