敏腕CEOは初心な書道家を溺愛して離さない
「そもそも何が書いてあるのか分からない作品もあれば、俺にでも読める作品もあるんですね。どういうところを見たらいいんだろう?」

「採点されるときは選ぶ文字から、バランス、それから筆に含まれている墨にその濃さや量、掠れなんかも採点の対象になったりします。でも芸術の一つとして見るのであれば感性で見ればいいんじゃないかなって思います」

 壁の作品を見ながら、これはこういう意味で……と時折神代に説明したり、これはどういうものですか? という神代の質問に答えながら二人で会場を見て回った。

 いつも香澄は一人で見ることが多く、それはそれで自分の世界で観ることができるので面白いが、神代に説明しながら一緒に回るのも充実していてとても楽しかった。

 その時だ。
翠澄(すいとう)先生!」
 明るい女性の声が聞こえたのだ。

 香澄はその声に反応して声の主を振り返る。
 柔らかいピンク色の着物を着こなした笑顔の友人がそこにいた。

「あ、翠澄っていうのは雅号です」
 急なことで驚くかもしれないと香澄は隣に立っている神代に説明する。

「雅号……ペンネームのようなものですね?」
「はい。書道の場合は漢字二文字で雅号というのをつけるんです」

「漢字? ひらがなの名前はないんですか?」
「本名がひらがなの場合は漢字二文字の雅号を必ずつけるんです」
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